なおやんの 手記手記 しゅっき〜

なおやんの 手記手記 しゅっき~

痛みに耐えて よく頑張った

ブログタイトル

まりお流ラーメンから読み解く 令和という時代

プロローグ

「昔はいい時代だった・・・」

父の口癖である ここは天王寺Mioプラザ館の2階 狭い空間にアル中が押し込められている ある日の仕事終わり、数ヶ月ぶりに父とサシ飲みにきた

 

「日本人は安いモノに価値を見出しすぎた その結果、人間まで安くなった・・・」

まあそうかもしれんなぁ~なんて半分受けとけ半分流しつつ しかしまあ実際にそうなのかもしれない

 

柳井正が、日本は終わったとぬかしていた 日本を終わらせたのはお前やろが なんじゃあいつ」

父はユニクロのコートを足元に置きながら柳井へのヘイトをぶちまける

そうなんかもしれんなぁ~ 半分受け止め 半分流し・・・

 

まりお流という店

奈良のラーメン好きで知らない人はいない、「まりお流」

濃厚な豚骨スープが売りで、そのスープは”宇宙一の濃さ”を謳っている

ラーメン好きの私であるがまりお流には最近まで行ったことがなかった 行けなかった、ではなく、行かなかった のである それはあるエピソードに起因する

 

卑劣な大人

西の早稲田、関西最高峰私学の同志社大学に4年間通っていた

さすがに吉野からは通えないため、出町柳に住んでいた 当然の出町柳 あの景観と雰囲気のある街を差し置いて同志社から西に住む奴はヤバいって どういうこと?

そんな誇り高き出町民であった私、なんなら京大生みたいな顔をして生きていた

 

出町に住み始めてすぐの頃、所属していた高校の吹奏楽部の定期演奏会の手伝いに行った帰り、出町に住んでいるという話を、同じく手伝いに来ていた吹奏楽部の先輩に話したところ

「あのへんに美味しいラーメン屋あるよぉ~ごっけ~~て言うん~」

死ぬほどアホな話しぶり 普通ならそんなラーメン屋絶対行かないが、その先輩はおっぱいが死ぬほどでかかった おっぱいの大きい人間の言うことは概ね正しいと思って間違いがない あの共産党の志井も豊胸さえすれば支持者が増える 間違いない

 

そして後日向かった極鶏(ごっけい)はまさに絶品 めちゃくちゃ濃厚であとに残る鶏の強烈な旨味 完全にファンになった

 

その後もフラフラと出町に住み続けていたある日の土曜 ぼーっと「せやねん」を観ていると

今日決定!関西で1番濃厚なラーメンは!?!?

なんていう最高なコーナーが始まり、そこにはあの極鶏も候補に

ルールとしては、巨大メスシリンダーにラーメンのスープをなみなみ注ぎ、そのスープの上にこれまた理科の実験で使うような重りを乗せる そしてその重りがメスシリンダーの底に沈むまでの時間を計測する というものであった

 

関西中の濃厚ラーメンが集結したが、意外と早く重りが落ちてしまう 面白くない

そんななか声高らかに”宇宙一濃厚”をひっさげてやってきたのが「まりお流」であった

ミルコクロコップとド突き合いした後の久石譲みたいなハゲが自信満々にスープを注ぎ込む そして実際になかなか重りは落ちない 大健闘を見せ、暫定1位に

 

さすがに決まったかと思ったその瞬間、澄ました顔で登場したのが極鶏である

スープの上に重りを乗せる・・・ なんと沈まない 一切沈まない 5分経とうが全く動かないのである

もうこの時点で私は久石のドヤ顔を思い出して笑い転げていた 宇宙一て笑笑 お前のコスモちっちぇえ笑笑笑 奈良の片田舎者が左京区民様に勝負を挑むなんか1光年早い ヤバい宇宙観持ったお前に光年なんて概念が通じるはずもないけども笑笑

 

勝負も決まったしぼちぼちシャワーでも入って出かけるかと服を脱いで風呂場に向かう私の耳にテレビから信じられない言葉が飛び込んできた

「なんと宇宙一を公言していたまりお流が、このままでは終われないと、宇宙一のラーメンを作り直し再び勝負を挑みに!!」

 

???

 

「どうでしょうか・・・おおっ!沈みません!!関西一濃厚なラーメンはまりお流と極鶏に決定しました!!」

 

?????

 

そして画面に映し出される久石のご満悦顔

 

絶対にこんなことがあってはいけない

まず勝負が決したあとに不服を申し立てる厚顔無恥さ そしてメニューにはない、勝負に勝つためだけのラーメンを作って同率一位を勝ち取って満足してしまう倫理観

極論、ヘドロをかき集めて「これはラーメンです」と主張すれば私でもこのランキングで一位に立てるわけである 客に提供してないラーメンを出してもいいのであれば

 

負けを認められない大人 なんと情けないことか こんなラーメン屋死んでも行くか そう誓ったのである

 

そして対面

2ヶ月ほどまえ、友人にまりお流に誘われた

過去にあんなに憤っていた私ももう左京区民ではなくなり、何の感情も持たなくなっていた

普通に食べて 帰った 美味しくはなかった

 

 

そして先日も友人にまりお流に誘われた あ~そんな美味しくないけどまあ行くか~くらいの軽い感じで車に乗せてもらった まさかあんな体験をするとも思わず

 

開店15分前くらいに着くともう行列ができていた そう、奈良では人気店なのである こんな美味しくもないラーメン屋を有難がるから志賀直哉にディスられる 仕方がない

その行列の先頭から店員がメニューを伺っていく、事前にメニューを聞いてくれるのはありがたいサービスである

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この前は霧島を食べた

結構濃かったけどあれで濃度15か・・・てか濃度てなんやねん 2位がイキんな

ちょっと濃度を上げてみたいけどあまりにも高い この金が久石の懐に入るとなれば余計躊躇する 一番濃厚な「オリンポス」は税込2750円もする 血統つきの犬でダシでもとってあるのか 高すぎる

下には「開聞岳」なんてメニューもある ええ名前やん

さらにメニューをめくると、知覧鶏の刺身なんてものも出てくる

 

開聞岳 知覧

この2ワードで何かを連想できる人は何かしらの戦争学習をした人間だろう

 

1945年、いよいよ劣勢に立たされた日本は決死の作戦として航空特攻作戦を決行する

知覧にはその特攻隊の基地があった

知覧から飛び立った若者が人生で最後に目にする日本本土の景色が開聞岳なのである どんな想いでその山を見つめたのか

 

そんな想いに耽っているうちに注文を伺いにきた

なんやかんや前回も頼んだ霧島でいいかと思っていたし、友人ともそうしようと打ち合わせてあった

友人のほうに店員が行ったので、友人が先にメニューを注文する もう2人の間で霧島を頼もうという打ち合わせは済んである 私は「じゃあ僕もそれで」という日本語しか用意してなかった

 

「オリンポスで」

「じゃあ僕もそれで」

 

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 友人など信用するものではない

運ばれてきた濃度マックスのラーメン あまりにもスープが少ない 何がどうなっているのか 本当に嫌な予感がする

 

一口食べる

 

自然に口をついて出た言葉

「ほんまにこんなことしたらあかんで」

この感情はそう、2位に納得できずラーメンを作り直してきた久石の顔を見て思った感想と同じである

なにがすごいのか まず本当に濃度がすごい ハチミツに麺を浸したような絡み具合

そして不味い とんでもない ちょっと薄い霧島が不味かったんやからオリンポスが美味しいわけがない

 

よく噛み砕いて落ち着いた上で3つの感情がわいてきた

 

1つ目は紛れもなく怒りである 厨房を見ると久石がいた お前はどんな気持ちでこんなふざけたラーメンを作ったのか 食べた人にしかわからんけど本当にふざけたラーメンなのである

食べ物で遊んではいけないという、割と人生の初期に植えつけられる価値観・倫理観、そして良いサービスを提供したい、美味しいものを食べさせたいという第三次産業の根本にある価値観も全て放棄しないとこんなものは作れない 人間を構成する材料が全く違うのかもしれない そう思うと久石の顔が本当に怖く見えてきた

 

2つ目は後悔である

こんなものに2750円も使ってしまった この金があれば何ができる?

行列に並んでいるときインスタのストーリーを見ていると友人が山代温泉に行っていた

そう、18切符を使えば2300円で山代温泉に行ける 

見所がまとまっていて食べ歩きも楽しい 駅からの路線バスにわざわざガイドが乗り込んできて観光案内をしてくれる 素晴らしい温泉地

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山代温泉に行ったなら名物温泉卵アイスは絶対にバニラ味を頼まなくてはいけない 抹茶は不味い

 

2750円でできたことリスト、が頭の中で嫌でも生成される 消したいのにこまめにPDFで保存してくる あぁ本当にお金を無駄にした 貯金ないのに

 

 

 

 

 

 

そして3つ目は自分でも予想だにしていない感想であった

「感謝」である

 

メニューで”開聞岳”やら”知覧”という文字を見せておいてからのこれである 戦時中の人間に対してこんなメシ本当に申し訳がなくて食べれない その点でこれは怒りの感情でもあるのだが、同時に、食べ物で遊んでいい世の中に生まれることができた幸せ こちらの感情も大きくなってしまった

そう思うと目の前にあるヘドロが、世の中の豊かさを示す象徴に見えてきた

 

そして父の言葉も蘇る

「安いモノに価値を見出しすぎた・・・」

安くて良いものが流行る世の中の流れに完全に逆らったこのラーメン

しかし、安くて良いものだけがもてはやされる世界と、高くて良くないものが許される世界、どちらのほうが豊かだろうか おそらく後者である

このラーメンはバブル崩壊後に日本に植えつけられた価値観をまたひっくり返そうとしているのではないか もしかして世の中を良い方向に持っていく力がこのラーメンにはあるのではないか そんな希望を抱いてしまう

 

令和という時代、元号が変わるなどという体験をしたことがない我々若い世代はどうしても全く新しいステージに移行したと感じてしまう

しかし当たり前であるが、この時代に変わるまでには様々な出来事があり、先人が死ぬ思いをしてこの日本を守ってきたのである

令和から続く道筋は平成までの道筋の延長線上にしか発生しない そんなことをこのラーメンは伝え、そしてその道筋さえも良い方向に導いていこうとしている

 

世の中にこんな素晴らしいラーメンがあるだろうか

 

厨房を見る

 

久石はいつもの表情でそこに立っている

お前は何年前からこの世の中を達観していた?

 

感謝の気持ちとともに2口目を口に運ぶ

本当に不味い えずきそうになる 頭おかしいんじゃないか

 

あまりにも胃にガツンとくるため1口1口インターバルが空いてしまう

1口食べて天を見上げる また1口食べて天を見上げる

 

そうしているうちにうっすらと見えてくる 

あぁ 開聞岳だ・・・

 

山というのは同じ土地で何百年何千年と、何があろうとも動じず、歴史を見届けてきた

だからこそ人々は畏怖の念を抱き、信仰の対象としてきた

あまりにも美しく佇み続ける開聞岳も、様々な歴史を見届け、そして今も変わらず人々に様々な感情を抱かせる

 

 

久石のオッサン、あんたは開聞岳

お前だけはこのラーメンを死ぬまで提供し続けてくれ 何があっても動じるな

 

 

 

奈良の片田舎にて この時代を改めて見つめなおしてはどうだろう

最高の体験があなたの価値観を変えるかもしれない

 

 

 

 

 

ラーメンは不味すぎたので水ぶっかけて薄めて流し込みました