なおやんの 手記手記 しゅっき〜

なおやんの 手記手記 しゅっき~

痛みに耐えて よく頑張った

ブログタイトル

社会の裂け目へ吸い込まれかけた 生家

違和感 そして絶望

「食べて帰ります」


仕事が定時に終わったある日の帰り道 そう母にラインしたものの、どこかの飲食店に入ることもなく、さけるチーズのみを片手に、本当に外食をするのであれば乗れないような、早い時刻の特急列車に乗り込んだ
なぜこんな意味不明な行動をしているのか 痩せたいのである
太るから外食もしたくないし、かといって家に帰ればたいそうな晩飯が待っている
こうなれば“外食をするフリをして家に帰る”しか選択肢はないのである 他にも選択肢があるような気がするけど思いつかないのはデブ化したせい デブは脳にまで脂肪が侵食してきてるのでバカになる デブはバカ デブは甘え 早く痩せないと

 

いつも特急列車の中では酒とツマミと日経新聞であるがこの日は水とさけるチーズと夕刊フジであった 「大坂なおみの恋人 黒人差別抗議デモに参加し逮捕」日経新聞の紙面には何があっても踊ることのないこの見出しだけで酒すらいらない気分になる 意外とこれもいいかもしれない

 

そして家に着く 玄関を開ける リビングのドアを開ける
こちらに背を向けた格好で座椅子に母が座っていた
「ただいま」と声をかけるが無反応 ああ寝てるんね よくあること
荷物を置き、まあ炭酸飲料くらいちょっと飲んでもいいかなと思い、母の真横を通って冷蔵庫の方へ向かおうとした際に、チラと座椅子の方を見た

 

寝ていたと思っていた母の目は不自然なほど見開かれ 首だけをこちらへ向けて佇んでいた
眼球はビー玉で出来ているかのように、無機質に無責任に光を反射しているが、その視線は間違いなく自分へと突き刺さっていた

周りの空気すら急に生気を失い静まり返る
昔家にファービー人形があってよく遊んでいたので無機質で馬鹿デカい眼球との対峙には慣れていたはずであったが、さすがに自分を出産した人間の人形化はあまり良いことではない
母は本当に動かない 動かないのに目を見開いている そして死んでいる
何か異常なことが起こっており、自分が下手に動くことでよりこの現実が迫ってくるのではないかという恐怖でなかなか声を発せなかったが、さすがに5秒ほど睨み合ったところで声をかけた

 

「どしたん」

 

返事を待つ 無反応 終わった まだこっち見てる 怖すぎる 許して ついに恐れていたことが起こった やってしまった
自分は “宇宙の流れ”から 外れたのである

ある魚との出会い

高校時代は吹奏楽部に所属しており、土日も練習に明け暮れる日々であった
しかしそれでも不意に休みが舞い込むことがある
こうなると逆に何をしていいかわからなくなり、反抗期の男の子であったが家族旅行についていくことにした
行き先は名古屋港水族館で、ここにはシャチにバンドウイルカシロイルカなど様々なスター選手が揃っており、イルカショーも過去見た中でダントツすごかった
ただ、その中で最も印象に残っているのは、フロアの隅に佇む小さな水槽であった
そこにはクロホシイシモチという魚がいた

 

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 (Wikipediaより)

 

このクロホシイシモチの水槽の前には回転するハンドルがある 例えるならアンパンマンポップコーンの機械に備えつけられているアレと同じような形

 

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出生率の低下により年々回転数の減少が目立つ)

 

このハンドルを回すと“流れ”が作り出される
クロホシイシモチは流れに逆らって泳ぐ習性があり、ハンドルを右にグルグルと回せば左向きにスイスイと、逆に回せば右向きに泳ぎだす


「巨人の小笠原みたいやな こんなんになったらあかんねんけど、社会はこんなもんや」
父が言う


確かに小笠原は金につられてホイホイと巨人に入った 金が右にあれば右に、左にあれば左に行くに違いない 
そんな生き方は寂しい気もするし、実際にひょいひょいと方向を変えるクロホシイシモチを見ていると滑稽な気分になってくる
しかし彼らは愚直に流れに逆らい続ける
逆らってはいるが、流れに対して従順な姿勢をとっているとも言える
視線の先の小さな水槽にそんな光景を見出した小市民の私はもちろんこのとき気付いていない


自分もまた 小さな水槽の中で生かされていることを

 

 ETの思い出

今の若い世代はETを知らないらしい
みのもんたみたいな異星人が出てくる映画と伝えても、みのもんたすら知らない世代がもうすぐ出てくるらしい
みのもんたとは と聞かれたらもう例えようがない 発情期のチンパンジーみたいなジジイが1日中電波をジャックしてた時期があったと堪忍して伝えるしかない 私達は恥ずかしい世代に生きていましたと認めよう

 

天下のUSJにもETのアトラクションがあった
現在その跡地にはアヘンを吸入した直後に見るプラネタリウムみたいなアトラクションがのさばっていて悲しいけどあのガンギマリ宇宙体験も最高にハッピーになるから仕方がない
ETなんか最後に異物から名前呼ばれるからな ガンギマリ体験にはある程度の匿名性が必要だというのにETは最後に名前を呼びかけられて現実に戻される
いとこは自分のことを「金正日」と呼ばせたという、嘘じゃなかったらその場で首を吊ってもいいようなことを吹き込んできたけど、聞いたこっちはのたうち回って笑ったのでそれが正解 面白ければ嘘をついても良いというのはいとこに教わった

 

そしてここまで書いて、ETの自転車型ライドがどんなんだったか全然思い出せない
横2列くらいで縦が6列くらい?
ベルトは?自転車にベルトってつけれる?ならそれは法律化されるべきでは?
足元は?もしかしてベルト無し足元ペダルのみ?落ちて人死んだからアトラクション撤去されたかもしれん 記憶が曖昧すぎる

 

そんなETに乗るといつもしてしまうことがある
つい、乗りながら後ろを振り返ってしまうのである


ライド型アトラクションに乗っている際の流れ、これは当然進行方向に向かっている もしここで流れを外れて後ろを振り返るとどうなるか
そこには、先ほど飛び出してきた車が薄暗がりの中でひっそりと元の場所に戻るサマ、陽気に挨拶してきたETのツレが急に動きを止めてぼんやりと空中を眺めるサマ、などの、先ほどまで快活に生きていた万物が、役目を終えて短い“死”へと突入する様子が映し出される

昔からこういったものに目がいってしまうのである
同じユニバならウォーターワールドで水面に落下して死んだであろう敵がスイスイと泳いでこっそりステージの端から顔を出すのを目で追っかけたり、スペイン村不思議の国のアリスでは、客が杖を振った瞬間にお姉さんがこっそり後ろに手を回して壁のボタンを押して仕掛けを演出するのをまじまじと眺めてしまう
これらは大きな流れから外れた行為であり、しないほうが良い行為であることに間違いない
「ETは生から死、ウォーターワールドは死から生、これは違うのでは?」
そんな次元の話ではなく、極めて大きな流れの話なのである

 

 

 
さて話は冒頭へ戻る

食べて帰りますと連絡をしたけども外食せずに早い時間の電車で帰る

これは流れから外れた行為なのではないか

「食べて帰ります」と送信した時点で自分の活動すべき行動にある程度の制約が発生する
→Q.誰から制約を受けるのか?

答えは漢字2文字 ここまで読んだなら導き出せるはず

 

 

 

正解は「宇宙」である

断っておくけどスピリチュアル芸人でもないしエホバの証人の年パス会員でもない でも確実に流れというのは存在する

流れから外れ、存在してはいけない時間・場所に自分は出現した
するとどうなるか 何らかの不具合が生じてしまうのである
それはUSJ開園前の早朝にETライドに乗りこみ、ライドだけ動かすのと同じである
そこには空虚な世界が広がり、ETの親類や知人は全員意思をもたず、ただそこに佇んでいる その暗室を徘徊するライドへ乗った人間はおそらく全員発狂する

 

そして今、私は、意思を持たない母を前に、発狂寸前である
あと5秒で発狂する もう無理 飼い犬より理性の働かない獣になる、その寸前であった
「あぁ」
ふと、電子的な音を口から出し、ふと立ち上がった母はトイレへと消えていった

 

九死に一生を得た なんとか生き延びた
トイレから戻ってきた母は、いつもどおりであった なんとかズレは元へ戻っていた

 

裂け目はどこにでもある

流れから外れるのには、勇気と覚悟がいる
長いものに巻かれる人生は嫌かもしれない ただ、その長いものがあまりにも巨大である場合はもはや抵抗してはいけないのかもしれない

それは権力者への服従などそんなことではない そんな次元の話ではない

 

 

 

地元は田舎なので炎天下の中でも畑仕事をしている人をよく見かける
敬服に値する労働である
そんな彼らの横を自転車で通り過ぎる夏 ETを思い出すサドル しかし決して後ろを振り返ってはいけない 

陽炎のフィルターを通した畑に揺れる、鍬を振り上げたまま微動だにしない人型の何か
そんな光景を目に焼きつけないために