緊急事態宣言が出たのが4月
外を出歩くことすらままならない生活、これは読書習慣を身につけるチャンスじゃないかと思い、そこからひたすらに読書読書
最近になってさすがにペースは落ちてきたけどそれでも全然本を読んでこなかった過去と比べれば読破数は相当なものに
ただ、読んできたのはほとんどが小説 正直小説なんてものから大して得るものもないと思ってるし、なにかを得ようと意気込んで読みたいとも思わないし、ただただ娯楽としか思っていない
なので、特にこんな力が身についた!とか、見える世界が変わった!なんて言うこともない
伝えたいのは、娯楽としての本の世界は面白さ、しかない
そんな読書に明け暮れた今年における、ベスト小説トップ5をまとめてみる
そこまで悩むこともなく、スッとこの順位になったって感じ
5位 向日葵の咲かない夏(道尾秀介)
あらすじ
夏休みを迎える終業式の日。先生に頼まれ、欠席した級友の家を訪れた。きい、きい。妙な音が聞こえる。S君は首を吊って死んでいた。だがその衝撃もつかの間、彼の死体は忽然と消えてしまう。一週間後、S君はあるものに姿を変えて現れた。「僕は殺されたんだ」と訴えながら。僕は妹のミカと、彼の無念を晴らすため、事件を追いはじめた。あなたの目の前に広がる、もう一つの夏休み。
これ前もブログで面白いって書いた気する
この本を3月に読んで、これきっかけで小説の世界にハマりこんだような、読書習慣をつけさせてくれた一冊
ストーリーは雑 あらすじ読むだけで気悪いしな
新展開を見せられると普通は「おっ そうきたか!」とかなるけど、この本はひたすら「なんやねんそれ」ってキレそうになる
ただ、雑やけどもうそんなこと気にならないくらい設定のめちゃくちゃさが面白いし、読み始めたら止まらなくなるような展開と文章力のうまさ
まあでも特定の宗派の人は受け付けへんやろうし、まっとうに人生を歩んできた人間も嫌悪感を抱くであろう本なのは間違いない
この本を受け入れることができれば4位以上の本もおそらくハマるはず・・・?
4位 ボトルネック(米澤穂信)
あらすじ
亡くなった恋人を追悼するため東尋坊を訪れていたぼくは、何かに誘われるように断崖から墜落した……はずだった。ところが気がつくと見慣れた金沢の街にいる。不可解な思いで自宅へ戻ったぼくを迎えたのは、見知らぬ「姉」。もしやここでは、ぼくは「生まれなかった」人間なのか。世界のすべてと折り合えず、自分に対して臆病。そんな「若さ」の影を描き切る、青春ミステリの金字塔。
感覚的なものでしかないけど、表紙を見て「あ、絶対この本面白くない」って思う本がたまにある
まさにこの本の表紙がそうやった なんかわからんけど面白いわけない表紙やん とか思ってたし、タイトルも「ザ・ゴール」(肥満児は社会のボトルネックだとして米国人の肥満問題を弾劾する極悪非道本)を連想させるし、本を買ってからも1ヶ月くらい本棚に眠ってた
なんでそんな本を買ったのかというと、今でもそうやけど、人からの推薦本は基本的に買うことにしてるからで、この本も他者推薦本のひとつやった
勝手に感覚的に拒絶しといて読まないわけにもいかないし、ちょうど手持ち本もなくなったし、と思ってページをめくると、なんとも読みやすい
まず設定が並行世界モノで、かつその世界で家に帰ると知らない女が出迎えるという、星新一のショートショートのような、非常に興味をそそられる序盤の展開
文章は中学生でもスラスラと読めちゃうような感じで、読むの楽やし展開も面白いなと思う反面、もしかしてこれは学童向けの本じゃないかと思いはじめる
この本を読む前に米澤穂信の「満願」を読んでたので、どう考えても大人向けの恐ろしい本を書く人やとはわかってたけど、この本はそんな作風は一旦捨てて子供向けに書いてるんじゃないかと
ただ、並行世界に飛んじゃった主人公が、元の世界との相違点を探して「ここが違う〜」てなってるあたりまでは微笑ましかったけれども、その間違い探しを進めていくにつれてなんとも嫌な展開に
そして気が付けばエラいことに 最後の1ページを読み終えた瞬間は力が抜けて変な笑いが出てしまった
読み終えたあとに気付くのは、この湿り気のある話を展開するにあたり、「北陸を舞台としている」というのはめちゃくちゃ大事な要素やなーと
これが横浜とかやと大して面白くない本になってたんじゃないかとさえ思う
なんせ読みやすい分学童にも薦めてあげたいけど、学童がこの内容を背負いきれるのかと思うし、この主人公に感情移入してしまうと非常に危険なので読ませない方がいいのは間違いない
3位 エディプスの恋人(筒井康隆)
あらすじ
ある日、少年の頭上でボールが割れた。音もなく、粉ごなになって。――それが異常の始まりだった。強い“意志”の力に守られた少年の周囲に次々と不思議が起こる。その謎を解明しようとした美しきテレパス七瀬は、いつしか少年と愛しあっていた。
あらすじ貼り付けようとしたら、おもくそネタバレ書いてあるやんとか思って文章の途中までしか貼り付けられなかった
まさかと思って本の裏側のあらすじも読んでみたけど全くの同文 これは良くない 非常に良くない 本の裏側のあらすじを読んではいけない本
さて世間には「人生に行き詰まったら読む本」とか「辛くなったら読むべき本」などといった自己啓発本は色々あるけれども、もうそんな本を読むよりこれを読んだ方が気が楽になるんじゃないかと思う そんなスケールの大きい本
もともとこの本は「七瀬三部作」の三部目、七瀬ちゃんという人の心を読むことができる女性を主人公としたシリーズの最終作になるんやけれども、これが三部ともそれぞれ全く毛色の違う話で、このシリーズで一番好きなのは?との問いに対する答えは読者の間でかなり別れるというちょっと変わったシリーズモノ
その中でもこの三部目「エディプスの恋人」が最もシリアスで、展開もめちゃくちゃ
特に終盤はそのスケール感に感動を覚えたり、かと思えば過去作を最悪な形で掘り返して吐き気がするような展開に持っていくとか、感情が揺さぶられっ子症候群
早瀬耕の未必のマクベスとか伊坂幸太郎のモダンタイムスも大まかにはこういう話に分類されるのかなと思うけど、この本ではバッサリと「これはアレの力です!!」と言い切ってるのが衝撃的
またこの七瀬三部作は活字の使い方が多彩で、上の「恋人はあなたです」とか笑ってしまうねんけども、この本の中の最高権力者である「アレ」は、強すぎるが故に発話内容が全て赤文字で書かれてて、文庫本って色付き文字使えるんや!ってそんな意味わからんところにも感動させられる本
2位 新世界より(貴志祐介)
あらすじ
1000年後の日本。豊かな自然に抱かれた集落、神栖(かみす)66町には純粋無垢な子どもたちの歓声が響く。周囲を注連縄(しめなわ)で囲まれたこの町には、外から穢れが侵入することはない。「神の力(念動力)」を得るに至った人類が手にした平和。念動力(サイコキネシス)の技を磨く子どもたちは野心と希望に燃えていた……隠された先史文明の一端を知るまでは。
これも三部作
ただエディプスの恋人と違うのは、これは三部まとめての2位評価ということ
三部それぞれ割と分厚いし、読むのも大変やけれどもなんせ面白すぎて一週間で1,200ページほど読破してしまった
これもぶっ飛んだ設定の本やけどちゃんと話は作り込まれてて、それがそうなったらそうなるわな〜という、筋が通った歴史を歩んだのちの1000年後の日本が描かれている
一応舞台は日本なので、東芝製の電化製品がギリギリ生き残ってた状態で登場したり、昔の地名が残ってたりすることに時折変な感動を覚えさせられたり
また、物語が崩壊し始めるのも「穢れ」のような日本的な概念がもとになってるし、「エゲツない日本版ハリーポッター」って感じかも エゲツないので四肢とかはモゲます
こういう長編小説は、否応なしに登場人物とその背景(この本の場合なら神栖66町という街)に愛着が湧いてしまう
途中、間延びする箇所があるとか口コミにはあったけど、本の世界観に対する愛着の醸成にはある程度の文量が必要でもあるわけで、それはこの本に必要な要素じゃないかなと思う
その愛着が湧いた世界がエラいことになるから感情を動かされるのであり、もう途中から読むのが面白いやらしんどいやらわからなくなってくる
そしてこの1000年後の日本でも夕方のチャイムというのがあり、それこそがドヴォルザーク・新世界より第2楽章「家路」なのである
この「家路」を荒廃した日本に流すという発想、これだけでやられてしまった感がある
読後も家路が頭から抜けなくなるし、改めて聴くとなんと神々しい曲だろうかと思えてくる
なかなかテーマ曲ありきの小説なんてないかもしれんけど、この本は間違いなく「家路」ありきの作品
1位 メタモルフォセス群島(筒井康隆)
あらすじ
足のはえてくる果実。木の枝に寄生している小動物。人間を食べて首に似た果実をつける植物。放射能の影響であらゆる生物が突然変異体(ミュータント)と化した不気味な世界を描いた『メタモルフォセス群島』。妻子を脱獄囚に人質にとられたサラリーマンが、脱獄囚の家にのり込んで脅迫のエスカレーションを企てる『毟りあい』。ほかに『五郎八航空』『定年食』など幻想と恐怖の突然変異的作品群。
この記事の頭にも書いたけど、小説なんて娯楽としか思ってないんで、そこから文学的表現云々とか、なにか感じるものがあった云々ももちろん重視すべきなんやろうけど、第一にやっぱり読んでて面白いかどうかが一番だと思う
すごい高尚な文章なんやけど読む気起こらんなあ、などという本は、別に読まなくてもいいんじゃないかと思ってしまう
その点この本は娯楽に全振りしている アホすぎる
筒井康隆の本はこの一年でかなり読んだけれども、やっぱり長編よりも短編で輝く人だと思う
短編集もかなり出してるし、7割位は読んだはずやけども、この「メタモルフォセス群島」は頭ひとつ抜けて面白かった
アルバムでいう”捨て曲”みたいなものが一曲もないし、エロ・グロ・ホラー・歴史・SFと多様なジャンルの話をこの一冊で読むことができる
特に印象深いのは「走る取的」と「こちら一の谷」
走る取的は、取的(お相撲さん)がいかに最強の格闘家であるかと語りあげたのちに、主人公たちがその取的にひたすらダッシュで追われ続ける地獄のような話
学童のときの鬼ごっこを思い出したらわかるように、追われる恐怖というのは笑いと紙一重で、追いつかれそうになればなるほど笑いが止まらなくなるあの現象を活字で味わうことができる
”最も怖い短編”にもよく名前が挙がるほどの有名なホラー短編なので読んで損はないはず
こちら一の谷は、源義経の「鵯越の逆落とし」を描いたものやけれども、これがなぜか現代とつながってて、現代の文献をもとに話が進むというSF&歴史話
例えば義経の容姿は平家物語や義経記では出っ歯になっているが、現代では信用できない文献とされているために、ひたすら歯が伸びたり縮んだりしながら馬に乗る羽目になったり、逆落としの場所を巡って山陽電鉄と神戸電鉄の広報課がお互い義経を引っ張り込もうとしたり
歴史モノを描くにあたってあえて現代の文献の曖昧さに触れて、それに義経が踊らされるという発想が面白すぎるし、これもかなりの傑作
そして最終話の「メタモルフォセス群島」の極上のオチをもって締めくくられるのがまた最高
「メタモルフォセス群島」は「新世界より」の要素と「エディプスの恋人」の要素も混ざってて、結局こんなんが好きなんやろな
筒井康隆の短編集のおすすめで「笑うな」がよく挙がってるけど、絶対こっちを読むべき
中2のときに「笑うな」を読んで、筒井康隆は面白くない人だと思って避けてたので
その他 印象に残った本
夜行(森見登美彦)
なぜかこの人の文章受け付けないなあ という作家はいるもので、それはストーリーの面白い面白くないに関係なく、単純に好みの問題なので仕方のないものと割り切っていた
自分にとって森見登美彦はそういう作家で、四畳半なんとかとペンギン・ハイウェイを読んで、なんとなくハマらない人なんやろうなあと思って避けていた
ただ、これも他者推薦があったから仕方無しに読んだら、ドハマリした
鉄道と旅行とホラーと そして短編集のような構成で 好きなものが詰められていたらさすがに贔屓してしまう
口コミをみたら森見登美彦ファンが割と不満げでビックリして、それも「オチがよくわからない」というものだった
オチが曖昧やからええねん そこを自分で補完することに読書の醍醐味があるんやんけ
森見登美彦はファンの声に惑わされず俺の声だけを信じて執筆活動を頑張ってほしい
慟哭(貫井徳郎)
いいオチです 本当に
話の展開が変わって「ええええ!!」となる本は意外と印象に残らなくて
「えっ・・・」というような、しこりが残るか残らないか程度の本こそが上質やと思ってます
この本もデカい声出しそうなところはあったけども、なんせ最後1ページの締めがさりげなくて良いんです
農場においてある日、ブタの爺さんが語る
このまま人間に仕えて労働を提供するだけで一生を終えていいのか!私達は餌をもらえる対価として労働を提供しているが、人間はミルクも卵も生み出せない癖にぬくぬくとメシを食いやがって!
みたいな話
動物数十頭に反逆されれば人間もかなわないわけで、晴れて動物農場が完成
めでたしめでたし とはならず、そこから頭の良いブタさんによる独裁のはじまりはじまり
表紙の可愛いイラストからは想像もつかない、血と汗の洗脳物語
熱弁をふるって「それっぽいことを言う」ブタが資本家のごとき地位に上り詰めてしまうのは、人間社会でも同じであり、この本が書かれた1945年から75年が経った今でも同じであり、、、
最後に
みんなのおすすめ本 教えて下さい
その日中になにかしらの手段で注文しますんで