忘れられない出会いというもの
街なかで出会う看板や掲示物はその一過性ゆえ妙に心に引っかかることがある
妙に心に引っかかる
右から読むと亭主関白と結婚してしまった可愛そうな女性になる
いたたまれない
最後の「はい」は素直な返事ではなく「諦め」である
中でも最近のダントツベストは天神橋筋商店街で見かけたこちら
おそらくこの柱に小便を引っ掛ける犬畜生が跡を絶たなかったのだろう
商店街の中には基本的に柱などなく、柱の希少性ゆえ犬もここでするしかないのかもしれない
この張り紙のどこに心を惹かれたのか
「ワシも家でしたいワ」なんて微塵も面白くないし、号泣する柴犬には全く目がいかない
どう考えてもここである
最初見たときは笑いよりも先に衝撃を受けてしまった
街が臭くなる
あまりにも面白い ここ1年で出会った掲示物で1番面白い
自分だけかもしれない こんなにウケているのは自分だけな気がしてくる
ただ本当に面白い
これって「街が臭くなる!」だと絶対ダメだし、「街がクサくなる」でも全然面白くない
また、「街」を「町」としても面白さ50%減だと思う
エリアが固定された”町”と比べて”街”は特定の区域を指さないことが多く、よって割と肯定的で明るいニュアンスで使われがちである
そこに「臭くなる」という救いようのないワードが組み込まれているのが対極主義のようでたまらない
吹き出しに入れず少女の頭の上に置くだけの文字の配置
ポップさが一切排除されたフォントなのに赤文字なのも完璧である
なにか1つでも要素が欠けると崩壊するような、奇跡のバランスで構築された名作品だと思う
日本語は複雑怪奇ゆえ1つの表現を何通りもの文章で表すことができるが、ここにおける正解は「街が臭くなる」の一択である
その1つしかない正解を導き出すのは本当に難しい
ポルトガルのリスボン水族館で、観光客がiPhoneをラッコの飼育水槽に落としてしまうという出来事がありました。ラッコはiPhoneを見つけると大事そうに抱え、岩場に移動すると徹底的に叩き続けたといいます。https://t.co/q7QvjMtRFo
— エピネシス (@epinesis) 2023年4月22日
ちょうど一昨日見かけたこの記事のリード文も良かった
この文章における、ラッコがiPhoneを破壊する様を描く副詞としては「徹底的に」が唯一の正解だと思える
徹底的というワードを入れ込んだからこそ、この記事はここまで伸びたのだと思う
昨日バーに行くと、マスターに「坂本くん、テクノカットにした?」と言われた
テクノカットがなにか咄嗟にわからなかったので隣の人に聞くと、クラフトワークの写真をスマホで見せられて泣いてしまった
テクノカットは、もみあげを鋭角に剃り整え、襟足を刈り上げた髪型である。名称は、音楽ジャンルのひとつ「テクノ系」を日本に浸透させたグループ「YMO」のメンバー3人がしていたことにちなむ。
テクノカットじゃないですと泣きながら弁明した一方で、「テクノカット」という単語、めちゃくちゃ面白くて気に入ってしまった
「お前の親父、テクノなんだって?」
俺のテクノカットのせいで息子が学校でいじめられているとしたら、めちゃくちゃ可愛そうな反面、笑ってしまう気がする
「やべえ 見ろよ テクノ来たよテクノ」
授業参観で俺が教室に入るやいなや息子の周辺がざわつく
うつむく息子
ただ息子も「これが1番面白いから正解だ」と思っているのかもしれない
だから明くる年もテクノカットで俺は教室のドアを開ける
「やべえまた来たよ トンプー ほら トンプー 来やがった」
テクノ以上の正解を見せつけられ、子どもの想像力の豊かさに俺は唖然とする
息子を私立に入れてよかった と そのとき思った