花道
男には花道を飾られたいという願望がある
その人間の地位・名誉が大きいほどその花道は鮮やかとなり、どんな花道を飾られたかということはその人間が人生で何を成し遂げたか、そんなことを表してしまうのである
そしてどの男にも理想の花道というものがあるはず
鉄道マンとしての理想 それは最後の一日まで客を運び、長年付き合ってきた古臭い車両に「ありがとう」と言い残しひっそりと身を引く これじゃないか
鉄道なんて当たり前に運行されるもの 誰から感謝されることもない でも最後までプロとして社会を支え続ける あぁこれだ 人生の最後これかな~ なんて思ってた時期もあった
終わりは突然に
志麻超え
運転士とクソ不仲というのは散々言ってきた
その日も朝から1件やらかし、これ絶対怒られるやん思ったら案の定
運「お前さ、何回言うたらわかるん」
俺「(いやこの手のミスは初めてやけどねん)いや、すみません申し訳ないです」
運「いやすみませんじゃなくて」
あー出た日本で1番不毛なやり取り 「すみませんじゃなくて」こっからなに生まれんねん 言うてる側の脳内快楽物質が出るだけのクソワード
運「それとこの前お前後輩から金借りたやろ」
この間の班の飲み会の際、飲み会会場の周辺でお金をおろそうとしたら南都銀行のクレジット機能付きカードを新しく作った関係で古いほうのカードが使えず、おろせなかったことがあった
普通は先輩に泣きつくところを、職場の人間に対して極度に恐怖感を覚えていた私はあろうことか後輩に泣きついたのである そんな情報リークしてくんな絶対負けるやんこれ
運「お前都合のええ後輩に金借りんの?1番タチ悪い人間やな?あのあとラインしたやろ後輩に、振り込みで返すからカード番号教えてって あいつ気持ち悪がってたぞ ほんでそのあと既読無視したやろ 金借りといて既読無視ってなんやねん」
ひえぇ 絶対にお前を殺すという強い意志を感じる 確かに酔ってそんなことラインした気する 後から見返したらオールひらがなやったしまともなラインじゃないのわかってくれよ~ほんであの後輩俺のことキモいって?ひえぇ 絶対にお前を殺すという意志~
運「それと〇〇さんもお前のこと、あんなやつの面倒みれんって言うてたぞ」
ひえぇ
運「お前が挨拶せえへんって不満な人もおるらしいわ 全部俺に回ってくるわ」
いやなにこれ 市民団体の代表と話してんの?不満集約して町議会議員の俺に言うてきてんの??ほんで町制に関するどんな要求か思えば個人の悪口かい ぶっ倒れるわ
ほんで挨拶普段からしとるわボケ たまたま挨拶せんかった一瞬を切り取って悪口を叩くってのは他の同期がされてて同情したけど俺もそんなしょうもない被害遭うんかい そもそもお前が俺の挨拶無視するのはあれは合法なんか なんじゃこれ
前からこういう伝聞話が多すぎる この1ヶ月ほど前には
運「お前さ、なんで千里中央出身とか変なうそつくん?あいつ怒ってたで お前は仲ええと思ってるんか知らんけど向こうからしたら不愉快なんやろうな」
これ誇張とかじゃなくマジで言うてくる
確かにそんな会話はあった
相手の人は最近俺の住む大淀町に引っ越してきたらしく
「いやこの町ええとこですよ!ベッドタウンですよ!奈良の千里中央みたいなもんですわ!」
てな感じの会話をしたしそのときは相手も普通に笑ってた これがどう捻じ曲げられてクソ田舎出身なのに千里中央出身とホラを吹くゴミ男の話になるのか
とにかく「あの人も怒ってたで」が多い それは本当か?なんで俺に直接言うてけーへんねん ほんまにそんなに怒ってたんか??ちょっと捻じってない?
色んなところから音を拾いそれをミキサーに集めるまでは百歩譲っていいとする
ただこの運ちゃんはその集めた音をアンプに運ぶまでの導線にディストーションエフェクターかましてくる そんなPAは死ぬべきだしこんなことをされたら日本の音楽文化は滅亡する
こんなことが続いたんで職場の人間と話すのも怖くなったし黙ってたら余計なんやあいつってなる、本当に悪循環にハマッてた
後輩から金を借りたのも、職場の先輩たちが心底恐ろしいからである
そしてまだまだ続くお説教タイム
「見習いからやり直せよ」とか「お前はこれからどうしたいん?」とかボロカス言われ
俺を見てくる目もヤバい 岩下志麻より怖い目を久々に見た そこに軽蔑と哀れみの色があることくらい犬でもわかる、そんな目であった
お説教は慣れっこやけどもうボチボチ我慢の限界 最低限の自尊心すら保てないこれは
大学時代、ロングコートを着たまま洋式便所に座り、尻の下に入り込んでしまってたコートに気付かず大便をしコートをクソまみれにしてしまったことから21歳にしてアダ名が「ガイジウンコマン」になったこともある
それでも私はウンコマンとして生き抜いた 生き抜けた それは自尊心のラインが非常に低く、どんな環境でもまあまあ幸せに生きていける人間であったからである
ただそんな最低ラインの自尊心すら踏みにじられたらもう死ぬしかない もうこれあかんな
岩下志麻より恐ろしいその目を見て、衝動的に「今日辞めよう」と決意した
天使と悪魔
お説教を受けたのは勤務中で、まだ最後の1本だけ乗務が残っていた
あっこれが乗務員にとってのラストランってやつか・・・不意に思ってしまう
思えば昔から鉄道大好きっ子だった 家には無数にプラレールがあり、毎週のりもの探検隊を観ていた
普通はある程度の年齢になれば鉄道になど興味がなくなるのだが私はずっと好きだった 将来は電車の運転士になる 何度も口にした夢であった
その夢半ばにして市民団体の圧力に屈して辞めるのか??
いやいやそもそも電車の運転士ってそんなになりたいか???
「あなたは続けるべきよ!」
こっ この声は!!
ああっ 吉岡里帆!!!これはもしかして天使!?
「もっと客観的に今の状況を見つめなさい!ここで逃げてはダメよ!それにあなたにも非があるでしょ!これから頑張れば道は開けるわ!」
あぁ~全部正論~ わんわんわん これからも鉄道マンとして生き抜きます!
僕には理想の花道があるんで!
「耳の後ろにある乳様突起という骨、ここに打撃を加えることで相手に脳障害を引き起こさせることが可能です」
こっ この声は?? 悪魔…??
ああっ!? 幼少期のダコタファニング!?
なにが吉岡里帆じゃ 吉岡里帆が好きな男、たいがいおもんないねん
好きな女優聞かれて吉岡里帆って答えてそこからどう話が展開するねん おもんないねん 田嶋陽子って答えろ
「国民健康保険の加入手続きは、退職日の翌日から14日以内に居住地の市町村で行ないます。場合によっては退職日を確認する資料として退職証明書等の提出を求められる場合があります」
あっ ちょっと話が飛びすぎてわからないです とりあえず辞めればいいんすか?
乗務する電車がホームに入ってくる
いよいよ最後か・・・
ということは、 そろそろ"アレ"が来るんじゃないか?
はい来た来た 2週間ほど前「この駅で電車の切り離しが見れるのはいつですか~?」て俺に聞いてきた子どもが目の前に
「この時間ちょっと切り離しないんよ~ごめんな!」ってそのときは返してしまって、ちょっとかわいそうなこと言ってしまったかな?その場で電車切り離してあげたらよかったな?とか思いを巡らせてた、あの子
やっぱりこのタイミングで来るか
俺「覚えてる?この前話しかけてくれたよな??」
子「あっ 覚えてるよ坂本車掌!」
クッソかわいい なんやこれ
その子に精一杯手を振りつつ電車は駅を出発
車内巡視に赴く
やっぱりいる 明らかに誘っている
近鉄電車のイラストが描かれたシャツを着た子どもとお母さん 話しかけないわけにはいかない
俺「かっこええ服着てるやん!」
子「(モジモジ・・・)」
母「ありがとうございます笑 ほら!」
子「ありがとう・・・」
子どもは国の宝である 太陽である
この太陽のためになら身を犠牲にしてもいい この仕事、素敵じゃないか?
大学時代、串カツ屋でバイトをしていたことがある
立ちっぱなしなのがキツすぎるのと社員怖すぎるのと時給安すぎるのとで入って2ヶ月目で辞めようとしていた
辞めようと決意したその日、店におばちゃん軍団が現れ、えらく私に優しくしてくれ、励ましてくれ、そして接客を褒めてくれた
結局その日に店長に伝えようとしていた辞意は消え飛び、その後もズルズルと続けてしまったということがあった
あのおばちゃん軍団は何だったのだろうか
日本はいま労働力不足に悩まされている
少子高齢化が進む中、減少する労働人口を埋め合わせようと外国人の受け入れすら進んでいる
そんな中、バイトでさえも確保できない企業は多いのではないか バイトにさえ辞められては大変困る
そう、あのババア軍団は国が送り出したロボットなのだ
そもそも自分以外の人間に自我があることの証明などできない 自分以外全員ロボットかもしれない
少なく見積もってもこの世の半分はロボットである 自我を持って生きているとはどう考えても思えない人間 周りに多すぎる
そんなことを考えるとあのタイミングで串カツ屋に送り込まれたのはどう考えても人間ではない これは本当に間違いない
今回もそんなものが来そうな予感がしていた
うちの会社も人出不足に悩まされ、休日出勤がたびたびあった 年間休日なんと80程度である
そんな中でまた社員に辞められては日本経済にすら影響が及んでしまう そう考えた安倍晋三は刺客を送り込んだ
権力には屈しない
アベ政治を許さない
あ 会社は辞めました
あとぼく右翼です