幼少期、K-1中継があると坂本家は宴会であり、子どもたちにはお菓子とジュースが振る舞われていた
リビングの机にはポリンキー
テレビの中ではボンヤスキー
その俊敏な動きと、ほんの僅かな隙をついて繰り出される強烈な飛び蹴りや回し蹴りにより、ボンヤスキーより遥かに屈強に見える男たちがいとも簡単にリングへ崩れ落ちてきた
間違いなく世界で1番強い男はこいつだと思った
そして自分はボンヤスキーを倒すために生を授かったのだと確信した
だからずっとLINEの一言メッセージにもその言葉を掲げてきたのだが、その背後の写真を見ると、雑種犬とそこまで腕の太さが変わらない自分の弱い肉体に気付く
ただ自分には確実にボンヤスキーに勝てる方法が浮かんでいた
ボンヤスキーの老衰を待てば良いのである
彼はいま47歳
さすがに歳には勝てない
自分はただなにもせず、待てばよい
そんな甘い考えが通用するはずがない
ボンヤスキーは俺より弱体化することなく、天寿を全うし、逝去する
ボンヤスキーが亡くなる1秒前の状態で時を止め、ナゴヤドーム中央に置かれたリングにて俺とヨボヨボボンヤスキーが対峙したとして、1分以内に俺の方が死ぬことになる
また輪廻転生したボンヤスキーも俺より強い状態で生まれてくる
転生した赤ん坊はなぜか二階幹事長に顔が似ているが、確実に俺を一発で仕留める
これではボンヤスキーに勝てない
俺が強くならなくてはいけない
N=ナオヤ・サカモト
このときR=Nとなる点において効用が最大となる
効用とは、観客の満足度でもあるし、机の上に広げられたポリンキーの美味しさ指数でもある
RとNの実力が拮抗したこのR=Nにおける試合が1番面白いに決まっている
自分が強くなることで世の中に様々な効用をもたらすことができる
最近パーソナルジムに通い始めた友人がやけにパーソナルジムの素晴らしさを説いてくるので、打倒ボンヤスキーの野望を胸に、通ってみることにした
日ごろ週に2回程度、1回あたり5キロくらいランニングをしているくらいで自分はちょっと体力があると思いこんでいたのが運の尽き
初回からバチボコにやられ、虫の息
昔運動部であったのもあり、このボーダーを超えるとヤバいことになるという記憶が作動し、その手前で休憩を要求
床に寝そべる自分 横には正座をして待っていてくれているトレーナー
映画「おくりびと」のワンシーンかと思う
仕事のことを一旦頭から離して運動に打ち込みたいのに、頭の中には”単価”や”工数”といったワードがチラつく
自分がただただ寝ているこの時間にもトレーナー単価が発生している
ただこの状況を客観的に見るとお金を払っていいくらい面白いのでもうこれで良い気がしてきた
その後も吐きそうになりながらなんとか終了
あくまでもこちらがお金を払っているので破壊されることがないと思いこんでいたが、トレーナーは簡単に人を破壊するのだと知った
完全に足をやられ、次の日からピグモンみたいな移動方法しかできなくなり死にたくなる
1月にも蔵王温泉スキー場で足を怪我し、3月まで足を引きずって歩いていたが、またしても足が使い物にならなくなってしまった
破壊こそ創造の母 ー 岡本太郎
20代でスキー検定2級
30代で技術士2次試験合格
そして死ぬまでに打倒ボンヤスキー
頑張れ自分 負けるなよ