なおやんの 手記手記 しゅっき〜

なおやんの 手記手記 しゅっき~

痛みに耐えて よく頑張った

ブログタイトル

旬の越前ガニの味は 言語化可能なのか

衝動

きっかけがなにであったかもよく覚えていないけれども、とにかくカニを食いたいと衝動的に頭に浮かんだ

極上のカニはどこで食べられるだろうか

やっぱりこの近辺だと福井か兵庫?

極上のカニを食べるのならば、それとトレードオフになにか支出を抑えなければいけない

そこで今回は18きっぷで移動することにし、兵庫よりはまだ移動時間が短くて済む福井に行こう!と思い立った(兵庫のカニ食える地域はマジで遠い)

普段は自己主張なんてあんませんけども、外出や旅行に関しては、“俺がここに行きたい・これがしたい”から誰か一緒にきてね というパターンが多く、まず人を集めてそこから行き先を決めて・・・というプロセスを踏むことはあまり多くない

そして、今回も一緒に来てくれる友人が見つかった ラッキー

 

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福井へ

始発に乗り片道4時間かけてようやく福井へ到着

さあカニを食べるぞ! の、その前に(引用:お父さんのためのワイドショー講座)

 

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カニと温泉はセットだと日本人はなぜかDNAに刷り込まれているので、加賀温泉郷へ

 

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みんな大好き古総湯

内装がとにかくいい意味でアホ丸出しで感動してしまう もうアートの域 美術館に来ました

 

大学4年のときにも来たことがあって、そのときはお湯に浸かりながらステンドグラスをぼーっと眺めてるだけやったけど、今回は友人が発見した“お湯に反射するステンドグラスを眺める”というのをやってみたらもうガンギマリ

薬物キメたらマジでこんな景色なんやろうなと思える色彩の暴力に頭がクラクラする

浴槽に浸かっていた若者に、友人が「こっちから見たらめっちゃええですよ」と薦めるもビックリするほど無視される

一流外資コンサル勤務の友人の助言、ビジネスの場ではどれほどの付加価値がついているのか

そんなことはいざ知らず、助言を受け流す若者の横顔は凛々しかった

極度に自立した彼が輝けるフィールドを日本のどこかに用意してあげてほしいと思った

 

 

そんなこんなで晩になり、やっとこさメインの越前ガニへ

福井駅前の「らでん」ってとこがうまいらしいのでそこへ

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メニューを見る

 

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ひっくり返る

これ小数点以下第一位も書かれてる?温泉に浸かってるうちに死ぬほどインフレ起きた?うちの文鳥は2,000円やったけども命の価値とは??

それにしても越前ガニが本当にこんな値段をするのなら、なんらかの理由で会社をクビになったらとりあえず福井にカニを捕りに来ようと思う

 

とりあえず、予算も無限ではないので、「大」を頼むことに

しかしサイズが「大」から始まってるのも画期的やなーと「主」ってなに?何に対して?

そして基準が「大」というのは少し不安にもなってしまう

M-1ザ・パンチに92点をつけるようなものではないだろうか

大の上のサイズの伸びしろがあまりないが故に、基準を無理やり「大」としたのではないかと訝しんでしまう

 

 

 

 

 

 

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すんませんでした!デカすぎる!大将よそ見すんな頸動脈チョキーンいかれんぞ!!

海なし県に住んでるからサワガニしか見たことないけど、海にいるカニがここまで大きいとは思わなかった

小林多喜二の「蟹工船」はまだ読めていないけれども、きっとSFパニック小説に違いない

 

 

 

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嘘です本当はこのサイズ

全ての動植物はヒトの統治下 なめんなよ

 

調理方法は、大将いわく“茹で”が1番美味しいらしいので、それに従うことに

 

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ででーん ボーナス入ったしちょっとくらい散財せんと!

 

身を口に含む

うお 美味しいが過ぎる これをどう表現するかで人生経験を問われる気がする

スラムで育ち、ヒップホップ一本で食ってきた俺の答えは

 

 

カニの味がするカニカマ」

 

 

であった

 

もちろん補足しないといけない こんな表現が許されるわけがない

アントニオ猪木に対して「春一番にそっくりですね!」と呼びかけるようなものである

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さて、越前ガニの身、これは繊維の一本一本が極度に自立しているのであった そう、古総湯で出会った若者のように

その繊維のあまりの自立性に、思わずカニカマにそっくりだと思ってしまったのだ

そしてこの繊維が集団となれば、それはもう大阪桐蔭高校吹奏楽部のような、個々が強烈な個性を持ち、かつ全体としてまとまった、感動的な味となるのである

また、口に含んでから味が拡散するまでのスピード感もすごかった

「味のCOVID-19やー!」俺の中の彦麻呂が叫ぶ

彦麻呂はおそらく下唇を噛んで“ヴ”の音を出すとかはできないので、“コビット”って言うのかな

 

このように、今考えると上記のように色んな表現が思い浮かぶ

しかし、あのときはカニカマとしか浮かばなかった

でもカニの味がするカニカマ、これは革命的に美味いのではないだろうか 意外とこの表現も素敵な気がする

ただそんな表現を店で口に出そうものなら福井駅前の地価にすら影響するような気がして、恐ろしくて言えなかった

 

そしてこれは食べてるうちに思ったことであるが、これほどまでに美味しいもの、わざわざ何かで例えるとかしなくてもいいのでは?

最近は様々な物事について「言語化」が求められる

少しでも抽象的なことを言おうものなら、すぐに「エビデンスは?」とか言われる 根拠って日本語使えや気持ち悪いねんボケ

そして「なんとなくこう」とか「理由はないけどこう」みたいなものは許されなくなっている気がする

本当に好きなものに理由なんてないことも多いし、この人とは合わないなぁなんていうのも直感的な部分が多い

白でも黒でもない、このグレーなゾーンの感情こそが、超人間的で自分は好きである

スポーツにおいて、「ルール的にはOKだけど、なんとなく嫌」だと思うプレーとか戦略、それは堂々と批判してもいいと思う

そこでルールブックだけを持ち出して「ルール的にはOKですけど?」と自分の主張になんの綻びもないようなドヤ顔をする人間は、なんとも面白くない

 

ああ嘘をついた こんなこと食べてるうちに考えてるわけない

越前ガニを前にすると本当にカニのことしか考えられなくなります

それほど、本当に美味しい もう表現は美味しいだけでいいです 美味しい

 

いやー 1年に数度は、このような圧倒的に美味しい食材を食べる旅行をしたいと思った 本当に

みんな誘ってほしいし自分からも誘います

 

もうこの域までいけば「人生経験」という名目の経費で落とせるからいくら使っても大丈夫

だいたい人間はなにかに失敗して金銭を失ったとき、「人生経験」として正当化しがちやけど、アホほど美味い食材に金を注ぎ込むことこそが本当の人生経験

失敗事は「経済循環」名目で経費へ

 

 

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福井県民、駅前の恐竜が好きすぎて幸福度高いらしい

 

ケンミンショーの取材を受けた話

出会いは突然に

12月29日 この日は難波で忘年会

その前々日から家に帰っていないので家族に土産でも買って帰ろうかなと思い、なんばウォークにある、食パンが有名なパン屋さんに向かうことに

 

着くと店頭には4種類ほどの食パンが並べられていた

1斤600円〜1,000円程 幅がある

適当に買おうと思ってふらっと店まで来たものの、こう何種類も並べられると、おそらくこの中に「正解」が潜んでいるのだろうなと思ってしまう

一旦店の横のスペースに退いて口コミを検索

口コミを信仰しすぎる現代人に反感を抱く一方、結局自分もその渦から抜け出せんのよな〜とか思いながらスマホをポツポツやっていると

 

「あのーすいません ケンミンショーの取材なんですけど」

男の声

付近には自分しかいないので明らかに自分に声がかかっている

 

声の方向を見ると、中村佳穂みたいな見た目のサブカルチックな女(彼女自体は素晴らしいアーティストです)と、どこにでもいそうな顔すぎるちょっと背の高い汎用型の男がいた

2人とも年齢は20代に見える

 

うお ケンミンショーやん

黒光り淫乱猿と創価学会の女がMCを務め、都道府県ネタに対してそこに住む県民全員が首をひねる情報大捏造番組 大好きです

黒淫猿が退いて片玉チビになってから見てないけど、大好きです

 

「今ですね、街なかの人に声をかけて、各都道府県のあるあるネタを集めてて・・・」

 

姿勢を正す

やっとインタビューに答えられる日が来た やっと

 

阿波踊りの記憶

以前にもテレビに映ったことはある

サンデーモーニングからお笑い要素を抜いたクソ番組「バイキング」で抜かれてしまった

 

 

当時は阿波踊りが市と観光協会のゴタゴタにより、阿波踊りのクライマックスである”総踊り”を街中でやってしまうというちょっとした騒ぎがあった

ちょうどその日にその騒ぎの付近にいたものの、全く踊りが見えなくてつまらない上に割と酔っていたので、気違いみたいにそのへんでクネクネと踊っていたら

「中には、一緒に踊る人まで!」

みたいに、”総踊りに触発されて踊っちゃったお茶目な人”みたいに報道され、「な〜んか偉いさん同士で揉めてますけど楽しくやりましょうよ〜!」みたいな馬鹿な一般人代表にされてしまった

エゲつない名誉毀損である 親戚に徳島新聞の人間もいる 割とこの問題に対しては能天気な考えなんてもっていられなかったそんな私が・・・

 

次にテレビに映るときは、きちんと自分の意思を表明し、変なフィルターにかけられることなくその意見を世の中に届けたい

そう思うようになった

 

リベンジ 

 さあ映してくれ 俺を 等身大の俺を

 

しかし違和感があった

カメラがないのである 2人とも報道というものを舐め腐ったような軽装である

 

「すみません、口頭でのアンケートにはなるんですけど・・・」

 

は 映せや

てかこのコロナ禍で対面アンケートやっちゃうのもわけわからんし、回答が欲しいなら楽天インサイトにでも外注しろや 

昭和の証券会社の飛び込み営業みたいなことやらされてんのか?俺もう帰ろうかな 急に溢れる文句

しかし冷静に考えて帰る場所もないし、逃げたところですぐ隣のパン屋に行くしかないのである

ちょっと失礼・・・と言って逃げた奴がすぐ横のパン屋に並び出すのはさすがにダサい

そして、県民あるある、ちょっと答えてみたいのである

カメラがない不満はあっさり吹き飛び、奈良県民であることを告げ、ウキウキで彼らに向き直った

 

さあ渾身のあるあるをぶつけるぞー と思ったけども、唐突にこういうのが来たところで県民あるあるって意外と思いつかない

 

女のほうが言う

「他の奈良県の方だと『鹿がどこにでもいるわけじゃない』とかおっしゃってましたよ」

うわ引くほどおもんな あるあるとかいう次元なんかそれは

自分が何も思いつかない癖に他人の回答にケチつけるのは論外

しかしそれでも馬鹿にせずにはいられない

 

 

うーん なにかあるかな

 

あ、不意に思い出す

あるあるじゃないけど、時間稼ぎついでにケンミンショーに言っておかないといけないことがあった

 

ツイッター奈良県愛の強い人間を多くフォローしているので、その界隈でケンミンショーが炎上したことがあった

それは、奈良県自慢と題し、県民に奈良の自慢を聞くコーナーにおいて、ツイッター上では実際にインタビューに答えた人、また知り合いが自慢を長々と語ったという人が一定数いたのであるが、それは全カットされ、「奈良には何もない」という地元を貶める県民の言葉しか放送されなかったのである

実際にその放送は見ていなかったのだが、ツイッター上の荒れ具合はすごかった

 

blog.goo.ne.jp

 ↑このブログが参考になる

 

奈良県民は自虐気味である という結論に持っていくためにそういう切り取り方をしないといけなかったのであろうが、県民としてはかなり気分が悪い

そのせいで奈良の観光消費が落ち込んだらどう責任を取ってくれるのか

お前らが地方交付税を負担してくれるのか

食パンと同じで、現代は口コミや伝聞が全てなのである

 

今後そういうのはやめてくださいね と冗談ぽくそれを伝える

俺も相手もニコニコしているが、こちらの内心は全く笑っていない マジで今後やめろよ

 

 

と、どうでも良いことを伝え、それでもやっぱりなかなか思いつかないので雑談タイムに入る

 

俺の仕事を聞かれたので、

「公共交通関係の仕事を・・・」と答えると、男の方が

「僕、この仕事の前は電車のブレーキ作ってたんですよ!」と言う

「へえ〜そんな仕事 すごいですやん!それで今のテレビ局に?」と聞くと

「まあ そういう感じですね」と

俺みたいに鉄道関係→鉄道関係 もあれば、鉄道関係→テレビ局 なんて華麗な転身を遂げた人もいるんだなと思う 頑張ってほしいな

 

 

そんなこんなでいたずらに時が流れ

たどり着いた答えは

 

「吉野の人間は、吉野山の桜以外は全てパチモノだと思ってます 吉野山のは野生なんで」

 

ああ 吐くほどおもんない

でも限られた時間ではこれが精一杯 よく頑張った

あとはこれがどう放送に反映されるのか

 

大前提

まあひどい回答やけどこんなもんでいいかと思い、その場を立ち去ろうとする

 

「あ、ちょっとまってください」

 

男の方が俺を呼び止める

なんやろか 謝礼金?こんなアンケートを外注する金もないのに?

 

 

 

「実はケンミンショーではなくて・・・」

 

 

???

 

 

「僕たち、月に何度かパーティーを開いてまして、そこで県民あるあるを披露するためにこうやってアンケートを・・・」

 

 

???

 

 

「これ、パーティーの写真です!こうやってお菓子を持ち寄って・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はなぜパン屋に並ぶ食パンを見て、どれを購入するかを悩んだのか

それは、食パンには種類ごとに値段が決められており、それらを入手するには記載された値段分の貨幣を差し出さなければいけなかったからである

ここでは大前提として

・貨幣は交換機能を有している

・貨幣の価値は短時間で大きく変動しない

というものがある

この前提が揺らぐ可能性があるならば、貨幣の価値が落ちる前にさっさと適当に食パンを買っていたかもしれないし、そもそも貨幣と食パンを交換してもらえるかどうかを調べるという手間を挟んでいたかもしれない

 

このように、世の中には「大前提」というものがある

 

 

20代の男女が

「パーティーで県民あるあるを披露したいんでアンケートしてます」

と言って近付いてきたら、それは明らかに不審で気味が悪いし、ひょっとすると答えずに逃げてしまうかもしれない

しかし、「ケンミンショーの取材」という大前提を背負っていたので、信用した上に、意気込んでまで答えたのである

 

 

力が抜けそうになる

ケンミンショーで取り扱われると思って頭をひねって考え出したあるあるネタ、そしてケンミンショーに対する真剣な要望 あれらはなんだったのだろうか

こちらも「基本的人権の尊重」という日本国の大前提をブチ崩して彼らを引きずり回してやろうか

 

 

 

男のほうはそんな俺の様子にも気付かず、パーティーの様子を見せるべくスマホの画面をスライドさせる

シュッシュッシュッシュッ

倫理観のタガが外れた暴走機関車の音がする

もう彼は止まらない

人として超えてはいけない、停車すべきラインはとうに過ぎ去っている

お前が携わったブレーキを搭載した電車が本当に日本に走っているならば

明日から電車に乗るのはやめようと思う

いつ南海電車高島屋を突き破りアメ村の三角公園まで達するかわからない

 

 

 

さすがに気持ち悪いので、適当にあしらい、立ち去ることに

色々な感情が渦巻いていた

しかしそれらを全て噛み殺し、口から絞り出す

「よいお年を」

 

 

 

彼らが真っ当なレールを進めるような そんな2021年を祈願して

 

 

償いのジム生活

禁句

人に対して、絶対に言ってはいけない言葉というものがある

 

例えば、相手の家族を侮辱するような言葉 これは絶対口にしてはいけない

「お前のオヤジ、死ぬほど株弱そうだよな」

「お前の姉ちゃん、若い頃の重信房子にそっくりだな」

 

2006年ベルリンW杯においてフランス代表のジダンが突如相手チームの選手に対して頭突きを炸裂させたことがあった

当然暴力行為なのでジダンは退場させられ騒然となったが、これはジダンの家族に対して相手選手が侮辱の言葉を発したのが原因という事実が判明してからは、ジダンの行為に対する肯定的な意見が多く聞かれるようになった

頭突きも正当化することができる、家族への侮辱はそれほどの禁句として世間では認知されているのだと当時小学生の俺もしみじみと感じさせられた

さすがにこればっかりは、ジダン(示談)で終えることはできないらしい 笑笑

 

 

 

あとは、相手の故郷に対する暴言

例えば相手が愛知県民だとすると

「お前のとこの知事、犬山のモンキーセンターで生まれたらしいな」

トヨタ関連社員以外全員ダイハツの初期のムーブ乗ってる県でしょ?」

 

これも良くない

でも出身地イジりはよくしてしまうので、実は相手を怒らせてしまってることが過去何度もあったのかもしれない 反省反省

 

 

 

そして、1番言ってはいけないのが、女性に対する「太った?」である

こんなこと言うわけがない ないのであったが この間・・・

 

久々に会った地元の女の子

おそらく本人 いや、本人か?

とにかく、人の形をした明宝ハムみたいなものがコロコロと転がってきたので、思わず「肥えた?」と言ってしまった

本来、発話に至るまでに通るであろう様々な処理工程をすっ飛ばして、ギターの弦をただパイーンと弾いたような、素直でまっすぐな言葉が口から飛び出した

 

しかし、体の変化というものは、SOSでもある

前職のストレスがMAXだったときは毎日鼻血が止まらず、過度な歯ぎしりにより前歯が小2以来にゆらゆらして抜けそうになっていた

これは彼女なりのSOSだと思って聞いたのである 地元の同胞には快活に人生を歩んでいってほしい

 

しかし彼女は傷つき、俺の発言のせいでジムに通う羽目になった

 

懺悔

本来であれば、自身のハラキリ動画をTiktokにアップするのが現代における正しい責任の取り方であると言えるが、それは激痛を伴う反面、短い苦しみでもある

 

目には目を やはり俺もジムに通い、長く苦しい苦痛に顔を歪めるしかない これが、坂本直哉の”ケジメ”である

 

マッチョアレルギー

いや、ジムって趣味の範疇じゃないの?なにを刑罰のひとつみたいに

と言いたくなるかもしれない

 

いや、間違いなくジムは苦行である

だって 「マッチョ」がいるから

 

 

昔から、マッチョが苦手だった

中学のとき、「マッチョ」というあだ名の(名字より命名 本人はガリガリ)奴がいて、そいつのせいで俺と仲の良かったA君が学校に来なくなったことがあった

理由は、Aが便所の個室から変な声出してる!とマッチョが周りに言い広めたからである

それは大便を気張っていたのかもしてないし、1人で変な行為に及んでいたのかもしれない

しかし理由はなにであれ、マッチョがそれを周囲に吹聴していい理由にはならない

それからマッチョが嫌いになった あだ名に相反する体の貧弱さも、最初は面白かったけど嫌いになってからはそれも腹が立ってきた 血と骨だけにしてやろうか

 

そして、「マッチョ」に対する不信感のせいか、その後人生で出会う本物のマッチョ達も受け付けなかった

特にマッチョの目が苦手だった

お前なんか5秒で植物人間にできるからな という、完全な肉体的優位に立っていると確信しているあの目

全てを見透かされているようで怖かった

 

そして、世間で言い伝えられている「マッチョはやさしい」なんて定説も全然アテにならなかった

俺はわかったのである 奴らは「肉体を使う親切」しかしない

つまりハード的親切を好み、ソフト的親切には一切無関心なのである

 

例えば、「南森町駅はどう行けばいいですか」とマッチョに聞くとする

これに対して答えは返ってこない ソフト的な質問は無視を決め込む

しかし

「下水道を通って南森町方面へ行きたいので、非力な私には開けられないそこのマンホールを開けて欲しいです」と頼むと、喜んで応えてくれるし、ついでに方向も教えてくれるに違いない

マッチョに助けてもらうにはマッチョにやる気を出させないといけないのである

 

 

より極端な例を出すと、下の写真のようにホームに高さが2段階ある駅の、低い方のホームから足を滑らせ線路へ転落

足をくじいてしまったので低い方のホームすら上がることができない ホームにはマッチョしかいない となった場合

線路から低い方のホームに引っ張りあげたところでマッチョの肉体の真骨頂は発揮されないので、マッチョは助けてくれない

この場合どうするか

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人の図がパワポでなかったので内蔵で代用

高い方のホームの下まで死ぬ気で這いつくばって進むしかないのである

そこまでいけば、線路とホームにも高さが生まれ、マッチョは筋力を披露することができるので助けてもらえる

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ジムに通う目的

ジムは苦行であった

初日に行ったときなんか、乾杯ととんぼしか知らないのに長渕剛のコンサートに来たような気分になり、吐くかと思った

 

でもこれは刑罰であるので通い続けるしかない 苦しめば苦しむほどそれは償いであると信じ、四肢を痛め続けた

 

 

そんなある日、ふと友人に撮ってもらった自分の写真を見て驚愕した

筋肉モリモリになっていた・・・わけではなかった

昔から猫背ぎみであったのだが、デスクワークによる姿勢悪化も重なり、モンゴロイド人に退化した自分がそこに映っていたのである

思想としては保守的であるのだが、さすがにモンゴロイドまで遡ってそこに帰属意識を見出すことはないので、速攻整体院に通うことに

 

予約して、地図を見ながら店へ

 

 

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ああ店選びを間違えたな と思う

猫背を直したいのである

中田秀夫作品のロケ地巡りをしているわけではない

まず人がこの空間にいるのか いてほしくない気がする いたら困る

でもこの空間に佇む整体院 めちゃくちゃ凄腕かもしれない それか死ぬほどエロいことをされるか

どちらにせよ脱モンゴロイドへ向け、行くしかない

 

 

ドアを開けてみる

中でめちゃくちゃ歯を磨いている男がいた 30〜40代 こいつが整体師だろう

もう全てに疑いを持ってしまっているので、夕方4時に歯を磨いていることも大丈夫かと思えてくる

こんな時間に歯を磨くことある?インチキ整体師故に、嘘を吐き続けた口内の見えない汚れに耐えきれず、無意識に空き時間に歯を磨いてしまうのかもしれない そんなことすら思った

 

 

ただ話してみるとまあどこにでもいる感じの人で、雑談を交わしつつ、症状を伝え、チェックシートに詳細事項を記入し、治療が始まった

骨盤の位置が良くないらしいので、腰のあたりをゴリゴリとやられる

整体に来といてこんなことを言うのもあれやけど、本当にこれで治るのだろうか

人が小一時間弄った程度で形状を変えるような自我のない骨とともに今後も生きていかなければいけないのか

そう思うと、骨達には整体師に言いなりになって欲しくない気持ちさえある

これが本当の反骨精神

頑張れ、骨

 

そして足の指から手の先までゴリゴリとされ続け、最後に仰向けでベッドの上に寝るように言われたので寝転がると、整体師が妙なことを言い出す

「坂本さん、なんで猫背を直したい、とかあります?」

 

その質問いる?

虫歯治療に来た人に対して、虫歯を治したらまず食べたいものは?とか聞かんやろ

「いやまあ 姿勢が悪いと人としても曲がっているというか 真っ当に評価されないというか」

俺は俺で気違いみたいな回答をしてしまう

 

すると、整体師は俺の右手の手首のあたりを掴み、体に対して垂直になるように俺の右手を上げさせる

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こんな感じになるように手首をつかまれた

 

「では、『猫背のせいで社会から評価されなくて嫌です』と口に出しながら、この手を左側の腰骨の方向へ下ろすように力を入れてみてください」

 

俺の心拍数が急上昇する スピリチュアル!ついに来た!

 

ゲロを吐きそうなそのワードをなんとか口にしながら右手に力を入れるが、手首を整体師に掴まれたままなのであまり動かない

 

 

「では、『猫背を直して社会から評価されたいです』と口に出しながら、先ほどのように手に力を入れてください」

 

めちゃくちゃ嫌な予感がする

キショすぎワードをつぶやきながら右手に力を込める 今度も手首は整体師に掴まれたままである

 

動いた!スピリチュアル!さっきと同じ力しか入れていないのに!

 

 

「ポジティブな言葉を発すると、こうやって力が入るんですよ」

整体師は笑う

俺も笑った 満面の笑み

整体師は俺の笑顔をこの現象に対する肯定だと捉えていたようで、満足気な顔をしていた

 

もちろんそんなわけはない 俺の笑みは、自嘲であった

 

小学校の卒業文集の将来の夢、プロ野球選手になりたいと書いた

当時は本気で思っていたのだと思う 信じ続けていれば世の中なんとかなるし甲子園でホームランを打てると思っていた

 

しかし、25歳の俺は、湿った廃墟の一室でインチキ整体師に右手一本で押さえ込まれていた

この状況に対して過去の自分にどう説明をつけようか 許してもらえるだろうか

 

そんな様々な感情が渦巻き、笑うしかなかった

 

 

そして思う

筋肉がないからこんなことになるのではないか

腕の筋力があれば、手首を掴まれようが力ずくで腕を動かすことができた

非力ゆえに、整体師の力加減だけでスピリチュアル現象を起こさせてしまうのである

 

 

この瞬間、ジムに行く目的が変わった

本当の償い それは、筋肉により世のインチキ整体師を一層することではないだろうか

どんな廃墟にでも侵入し、一匹残らず駆逐する それが俺に課せられた使命なのである

 

この整体院は当然これを最後に行くのをやめたが、力をつけて再戦を望みたいと思っている

 

マッチョはすごい

もしかすると、ジムにいる周りのマッチョも、なにか社会的意義のため力をつけているのかもしれない

そんな人間が、庶民の道案内などするだろうか

それくらいスマホで調べろ マッチョをなめるなよ

今後はマッチョに対する偏見は一切捨て、ただただ羨望の眼差しで彼らを見つめ、群れの一員となれるよう精進するのみである

 

 

ちなみに俺のすすめでブログを始めたK氏は俺のジム師匠でもあり、彼は形式にこだわらずジムの楽しさを教えてくれるのでジムを楽しみたい方は彼に教えてもらってください

本来はジムに通う目的なんて必要ありません 念のため

note.com

 

 

 

ただ、明確に倒したい整体師がいる人は僕とともに頑張りましょう

 

物件選びは 難しい

プロローグ

「地獄を見た」

 

その領域に足を踏み入れたものは皆、口を揃えてそう表現する

 

そして俺は、その地獄に対して非常に主体的な関わりを持っていた

地獄と形容されるそれが、本当に地獄であるならば、俺は閻魔大王であろうか

 

その地獄とは、俺が大学4年間を過ごした 下宿部屋であった

 

 

欠点を挙げればキリがないけれども、まずなんせ狭かった

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間取りのこの黒い部分には謎の機材が入っているらしく、収納スペースとしては使えない

この謎スペースのせいで部屋は直角定規のような形状になり、逆に丹下健三が設計したような意匠が垣間見えてオツといえばオツではあった

 

洗濯機は共同 たまにパンツが盗まれることもあれば、逆に洗濯機から回収した洗濯物に上の階の80いくつのお婆ちゃんのパンツが紛れることもあった

 

下鴨本通に面していたから車はビュンビュンやかましく、隣はパブで夜中まで人間が吠えててこれも耳障りこの上なかった

 

 

当時いた彼女をこの部屋に招いたことがある 交際をしているので当然の行為であると思われる

ドアを開けて部屋を認識させた瞬間、井上尚弥のボディを食らったような「うっ」というくぐもった声が彼女から漏れたが、聞こえないふりをした

それでも健気に、手料理を振る舞ってくれると言ってくれた

しかし、キッチンが狭すぎるので、まな板すら買っておらず、当然包丁もなかった

なので、上の階の30代くらいの男の部屋に出向き、初対面ながらも包丁を貸してくれと頼みにいった

断られた

京都は厭な街だと思った

仕方なくハサミでニンジンを切る彼女 

しかし野菜の芯は強いもので、全然切れない

しまいに泣き出す彼女

人生経験の乏しさ故、涙に至る要素が全く理解できず、「手のこのへんに力を入れれば切れやすいのでは?」と力学の視点からアドバイスを与える俺

 

ーー地獄 地獄であった

 

高品質な物事に対する形容は多様性に富んだものである 語彙力が試される

しかし、その真逆の物事へ対する表現は”地獄”で統一されるのかもしれない

 

いざ物件探し

そんな大学以来にひとり暮らしをしたいと思うようになった

理由は単純で、職場と家が遠すぎる

よく、通勤時間を活用して〇〇!とかあるけども、自分は電車で何かができるタイプじゃないというのがこの1年でよくわかった

同じ本を読むにしても、電車で読むのと、もっと静かな空間で読むのとで、理解力や読むスピードが同じなわけがない

電車でできることはもちろんあるが、少々金を出してひとり暮らしをすれば、その行為のクオリティを高めることが可能である

 

そんなわけで物件探し

でもどうやって探そう?

まず物件を探すにあたり、下図のように「部屋設備」と「立地」のバランスをみてどのエリアのものを探すかという方向性を決めなくてはいけない

それを決めたのちに、具体的なエリア選択、そしてエリア内物件の部屋設備比較 とこういった手順でやろうと決めていた

 

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まず立地は、職場が中崎町ということもあり、中崎町・梅田・中津の梅田エリアが第一希望、そして好きな街ということもあり谷六が第二候補、それ以下に南方やら塚本やらの梅田から電車で10分以内エリア、とりあえずこのへんにしておこうと思っていた

部屋設備は特にこだわりはないものの、とりあえず地獄が狭すぎたのでリビングが8畳くらいあってあとはセパレート、都市ガス、二口コンロ、南向き、ゴミ捨て場有り云々、まああればいいかな程度の条件だけをリストアップ

問題は、立地を優先したグリーンゾーンにいくか、部屋設備を優先したオレンジゾーンにいくか である

いや、右上エリアに行けばいいだけでは?と思うかもしれない

 

 

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しかし右上エリアは当然、課金エリアとなっているのである

これは基本給が月収30ウン万とかにならないと開かれないゾーンになっている

そんな時期はいつになるのか そしてそれだけもらえればまた欲が湧き、右上のゾーンというのは新たに発生してくるのだろうなと思う つまり永遠にたどり着けないゾーンであり、実際には存在しないと思うしかない

 


よしとりあえず方向性を決めよう と思うものの、色んな欲が出てきてなんとも方向性が定まらない

そんなわけで、梅田ゾーン、谷六ゾーン、梅田近辺ゾーンをごちゃまぜで探しているうち、その3つの潮流が別々の方向から合わさり、完全に溺れてしまう

懸命に犬かきをしてその場に留まり続けているうち、ついに水平線のかなたに2つの島を発見する

それは、本来は課金が必要と思われる右上ゾーンに属するような、そんな物件2つであった

場所は片方が梅田駅から徒歩10分

もう片方が中崎町駅から徒歩2分

どちらもリビングは8畳以上 家賃の予算にも収まる 文句のつけようがない

すぐさま不動産屋にメールし、入居可能か聞いてみる

両方空いてますよ 来店お願いします とのこと

 

よっしゃ

 

内見当日

発掘物件について

その2つの物件が飛び抜けていたため、もうそこに入居を決めてしまうつもりでいた

しかし内見に行ってみてどうしても気に入らない点があるかもしれないし、念の為に梅田・谷六・梅田近辺で気に入った物件もリストアップし、事前に不動産屋に連絡しておいた 

 

そして内見当日

なぜか友人2人がついてきてくれた 意味わからんけど本当にありがたい

 

不動産屋に着くといきなり内見ではなく、とりあえず希望条件の整理やその他の物件を見せてもらうことに

もうこんな手順ええから早くあの物件が見たいな〜なんて思いつつ渋々用紙に希望条件を書き殴る

 

そしていよいよ俺が発掘した物件へ話が及ぶ

担当の社員の人が、その物件の間取り等の資料を取りに行く間も、友人と「ここでもう決まりじゃない?」みたいな会話をしていた

 

物件の資料を持ってきた、”20代の男前な兄ちゃん” な担当社員の顔はなぜか少し曇っている

「あの、実はですね・・・」

 

おお 来たな 事故物件?

しかしここまでは予想済であった 明らかにお得物件やったし

死亡理由が殺人 ・自死以外であればまあいいかと思えていた それくらいの物件であった

 

「退去の際に莫大な費用がかかるんですよ・・・」

 

?? 予想外

話を聞くと、退去のときにフローリングと壁紙の全張替えが発生するらしい

それは経年劣化も関係なく全て入居者の負担 そして張替えはオーナー指定の業者にしか頼めない

まあそんな細かいことはよくて、肝心の値段はいくらなのか

 

「40〜50万くらいかと・・・」

 

きっしょ殺すぞ

小学校3年生の語彙力で罵倒してやりたくなる でも不動産屋はあくまでオーナーと入居者の仲介なので文句を言っても仕方がない

実際に契約書を見せてもらうと、張替え面積と金額の表があり、キチガイみたいな金額が示されていた ジンバブエドル表記かと思った

 

さらに最悪なことに、2軒とも同じオーナーが所有しているらしい

「それどうにかならないんすか?こんなことは法的には大丈夫なんですか?」などと俺も貧弱な知識と語彙力で食い下がるが、契約書に記されている以上、無理らしい

 

「いやあ、正直なところね、僕だったら絶対ここには入居しないっす!」

担当者が困り顔と笑い顔を混ぜたような絶妙の表情を見せる

 

そうですよね お客様に親身になってくれてるからこそ、自分視点の正直な感想を述べてくれたんですね どうもありがとう

そんな感想がこちらの胸中に発生しているのを確信しているような、そんな余裕も垣間見えたような表情であった

 

しかし、そんなことは1ミリも思っていない

先 言えや

ここでは小学校3年生の語彙力でコトが足りる 先言えや

この物件を決める決めないの1番の争点はどう考えても退去費用に決まっている

それをわかっていながらどうしてメールでのやり取りの時点で伝えないのか

 

そんなこちらの胸中なんのその

「僕だったら!いや正直!おすすめはしませんねえ!僕らもこのオーナーさんには困ってるんすよ!」

いやそんなのは本当にどうでも良くて・・・

事前に伝えていただいていたら、おそらくこの2軒は候補から外していた そして今日はより有意義な議論が出来たであろう

確かにオーナーもヤクザみたいなことしよるなと思うけれども、そこへ向かう怒りはそもそも事前にかなり緩和可能であったわけで

 

その他物件について

仕方がないので、リストアップしてきた物件はどうですかと聞くと、その場で調べて「埋まってますねぇ〜」と言う

これも来店前にリストを送っていたので、その時点で入居者がいるかどうか確認できなかったのだろうか 持ち弾が減ったのがわかっていたならこちらも補充するのに

いやこちらが求めすぎなのか?俺は重たい男なのだろうか わからなくなってきた

店内でいきなり発狂してみようか

担当社員のこの男はどんな顔をするだろうか

 

その他、担当社員が提案してきた梅田エリアの物件はパッとしないものであった

何軒か見せられたけど全然頭に入ってこない

 

「お客さんはわからないと思うんですけど、梅田周辺の相場っていうのは・・・」

 

一度気に入らないことがあると全てが気に入らなくなるように、「お客さんはわからないと思うんですけど」なんていう言葉にも、眉毛が若干痙攣を起こしそうになる

 

イルカショーにおいて、イルカの生態についてトレーナーが

「お客さんはわからないと思うんですけど、イルカの耳は目の後ろ、ここについてるんですね!で、お客さんはわからないと思うんですけど、ロシアはイルカを軍事利用したことがあって・・・」

 

みたいに、「お客さんはわからないと思うんですけど」なんて言葉を枕詞のように連発したら、「そらお前は知ってるわな!!」と言いたくなる 

 

そんなわけで、話が右から左に抜けていく感じなので、特に内見したい物件も見つからなかった

そしてこれは後から気付いたことであるが、このとき提示された物件の中に、結局そのあと別の不動産で入居を決める物件もあったのだ 恐ろしいことである

不動産屋との相性で物件を決める、だなんてクソくらえ 条件が全て だと思っていたけれども、やっぱり相性というか最低限話を聞く気になるかどうかは絶対条件なのかもしれない 頭に入ってくる情報量が変わってくる

 

 

梅田エリアが厳しいことがわかったので、先程の図でいうオレンジゾーン、部屋設備重視に切り替えた方がいいのかな、、、との迷いも急に生じ、一旦出直します!と申し出て今日は退散することに

逐一希望物件言うてもらったら入居可能か教えますんで!って担当社員さんがラインの交換を求めてきたので、まあそれはしてもらおうと思って応じた

 

アイコンを見るとトイプードルを抱いた本人の写真であった

多分これ普段も使うようなプライベートなアカウントやん!と思うと同時に、嘘でもここでシベリアンハスキーの成犬とかを抱いててくれたら信用力も上がるのになと思ってしまう

 

シベリアンハスキーの成犬を抱けているということはシベリアンハスキーに信用されているわけで、すなわち信用できる 

対してトイプードルはそのサイズ故、信用の有無に関わらず、武力により抱きあげることが可能である

これでは犬からの信用度もわからない

 

こんなところに目がいってしまうほど、俺の心は荒んでいた

 

他の不動産屋へ

家に帰って条件をもう一回整理して物件選びをやり直そうと思っていたが、友人たちに「せっかくやし」ともう1軒行こうと薦められる

そんなこんなで2次会みたいな流れでフラっと大手不動産屋へ

 

そこでも梅田近辺で物件ないですか、と探してもらった

これいいじゃーんとなった中崎町の物件があったので、内見に行くことに(前述したようにトイプー男が紹介してくれた物件でもあった)

 

気に入ったので決めました ちょっと狭いけど 問題なし

 

住みたい場所を優先して物件選びをするように最後までサポートしてくれ、2軒目の不動産屋にも行こうと誘ってくれた友人には頭が上がらない

多分1人で不動産屋を巡っていたら心が折れて多分南方か塚本あたりに住んでいたと思う

 

そしてそのへんに住んでいたらおそらく後悔していた

物件を決めてから、決めたからなのか、大阪において中崎町ほど面白い街はないと確信するようになったから

またその理由については書くけど

 

そんなわけで中崎町に住んだので、皆きてね

もう地獄は見させません

 

 

霊はどこから発生するのか

セントラルタワーズ

いま ”JR名古屋駅”の看板を見上げている

看板を見つめ続ける俺の首の角度は上向きから水平レベル、そして下向きへと変化する

もちろん名古屋駅が地面に陥没していったのではない 自分が急上昇しているのである

 

名古屋でしたいことリストの1つに、「ミッドランドスクエアのエレベーターに乗る」というのがあり、名古屋駅前で時間があるときは毎回わざわざ乗りに行く

エレベータ内部の外に面したガラスからは外の景色があまりにもはっきりと見え、そして異常なまでの上昇スピードにより極上のスリルを味わうことができるからである

これが下りになるともはやフリーフォールと変わらないような体験になり、背筋がゾクゾクとする感覚が味わえる

 

そしてもとより高所恐怖症ぎみである自分やけども、このエレベーターだけは頭ひとつ抜けて恐ろしいと毎回思う

その理由が、目の前にそびえ立つ2つの巨大ビル「JRセントラルタワーズ」である

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大成建設HPより

高所へと昇っていく際、目の前の景色が開けていればいるほど恐ろしいのではないかと感じるけれども、個人的には目の前に明らかな巨大ビルがそびえたっていて、そのビルの最上階が近くに迫っているほうが恐ろしく感じる

これは、自分がどれほど高い位置にいるのかを、実際に上ってきたすぐ下の路面を見下ろして実感するのではなく、目の前のビルの大きさと照らし合わせて実感するという、ひとつ段階を踏んだ恐怖となる

 

国民的ホラー映画「仄暗い水の底から」では、母親が娘を抱いて家から出てエレベーターへ乗り込んだところ、今出てきたはずの家のドアがゆっくりと開き、中から娘が出てきてしまうのを、エレベータの中から母親は見てしまう

じゃあ今抱いていたのは誰?となり、振り返ると・・・という、これも段階を踏んだ恐怖となる

 

 

そして先月、弟がハタチになった

自分の年齢を聞かれたらスッと反射的に25歳という数値を口から吐き出すことはできる

ただ一方で”弟がハタチ”という情報をもとに自分の年齢を捉えなおすと、「弟がハタチということはその成長を見届けてきた自分も同じく加齢したわけで・・・」と、急に時間の経過が恐ろしくなることがある

少し年の離れた身近な人間というものはセントラルタワーズのようなものであり、それは時間的尺度ともなりうるし、そこには自分の人生がよりリアルに反映される

自分の全体像を自らの肉眼で見ることは不可能なのである

 

20年前

弟の誕生日になるといつも思い出すことがある

 

弟が生まれたその年、いまの実家に移る前の、大和高田市のマンションに住んでいた

 

その日も何気なしにマンションで過ごしていたはずである 当時5歳、当然記憶も曖昧なので、憶測による記述になる

ただその中でもある一瞬の映像だけは鮮明に残っていた

 

 

ー2000年11月16日深夜

 

「あの・・産まれそうなんですケド。」

 

上地雄輔のアルバム風に母がつぶやく

これは一大事 父親と俺は慌てて支度

行き先病院 ハイビスカス

 

当時はたしか3階に住んでたはずなので、エレベーターで下ることに

1階からエレベーターが上ってくるのを待つ僅かな間、少し母の方をチラっと見る

 

 

母親の襟元から、”手”が垂れていた

 

見えている箇所は肘の少し手先寄りから指先まで、35センチくらいだろうか

何かを訴えるようなそぶりもなく、手の甲を見せた状態でただただ力なく垂れていた

手の色は曖昧であるが、だらりと垂れた手のシルエットは鮮明に記憶されている

すぐさま両親に伝えたのだと思う いまだに両親もこのときの俺の慌てぶりを語ってくれる

そしてその深夜のうちに、弟が誕生した

 

7年前

2度目

そう 人生で2回しかない

 

 

ー2013年 春くらいの休日

 

休日は基本的に吹奏楽部の練習が朝から夕方まである

とにかくその日は眠たくて、昼休みは男子部員との団らんもさっさと切り上げて、1人で屋上へ続く階段を上っていた

屋上への扉は封鎖されているが、その手前になにもないスペース(悪の教典で女子生徒が殺戮される空間)があり、そこで昼寝をしようと考えていた

 

・・・ふと目が覚める いや覚めたわけではなく、脳は睡眠状態にあるものの目だけ開いている状態であった

いわゆる金縛り状態である

耳には管楽器や打楽器の音が聞こえてくる まずい 練習がもう始まってしまっているらしい

しかし動くことはできない

 

そのとき、俺の視界の両端から何かがすーっと伸びてきた

それは2人の生徒であった

視界の左から男子生徒 右から女子生徒 1人ずつ

男の方はショートカットで、女はおかっぱ風のオン眉みたいな髪型をしている

2人とも腰をかなり折り曲げ、覗き込むように上半身だけを俺の視界にかぶせてくる

 

それだけでも異様な光景であったが、2人の顔が近付いてくるにつれ、より奇異なものが目に映った

 

その2人には、”目”がなかったのである

 

目があるはずの箇所はなんの凹凸もなく皮膚がただただ伸びているだけで、目の周辺だけ少し肌色が濃くなっていた

本来であれば「見つめられている」とか「睨まれている」という表現になるのだろうが、なにせ目がないのでこの状況を形容しようがなく、俺の顔と相手の顔が至近距離で正対しているとしか表せない状態であった

コロナ禍における日常的なマスク着用を通じて改めて感じることであるが、人間というのは感情を「目」だけで伝達することが十分に可能であり、目からの情報を遮断されると当然のごとく相手の心情がほとんどわからなくなってしまう

この2人の生徒はいま穏やかな感情で俺と正対しているのか、それとも俺を殺してやろうと思っているのか

ビジュアル的な恐怖よりも、相手の感情がわからないという恐怖のほうがこのときは強かったように思われる

 

後から振り返ってみればお互いが正対していた時間は5秒程度であったがずいぶん長く感じられた

金縛りは知らない間にとけていて、2人の生徒もサッと消えていた

 

起きて慌てて下の階に行くと、まだまだ昼休みの真っ只中で、練習など始まってはいなかった

 

5年前

ー2015年 冬

 

ある日、入っていた軽音サークルの女の子に、大学の構内でふと告げられた

「なおやんって、人の目見ないよね」

 

あぁそうかもしれん 確かに

なんて、チクリとした小言程度に思っていたけど、意識してみると本当に人の目を見ないで生活していたことに気付く

これは改善しなくてはと思うと同時に、よくぞそんなこと指摘してくださったと感謝の念が湧き出た

 

P.S①なおやんってブログタイトルはその子からの呼称がもと

P.S②未だに飼い犬の目もロクに見れません

 

霊分析

内霊

人の目を見ないよね この指摘を受けたときにふと思うことがあった

目に関する出来事

そう、あの目のない男女は俺に何かを訴えたかったのではないか

 

そして考える

俺は目のない人間と対面した

しかし目が無ければ目を合わせることすら出来ないではないか

「人の目を見ろ」とのメッセージを伝えたいのであれば、むしろ巨大な目をした人間が俺をにらみつける方が効果的ではないのだろうか

 

・・・いや違う

風呂場で急にこの答えに思い当たった

 

導き出された答えは、こうである

 

 

 

 

”あれは、吉川晃司であった”

 

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まず、人生においてCOMPLEX「BE MY BABY」の吉川晃司以上に腰を曲げてこちらを覗き込んでくる人間を見たことない

もし自分自身の経験によって作り出される霊というのがあるとすれば、腰を曲げて覗き込む霊なんていうのは吉川晃司の幻影を引きずらざるを得ないのである

視界の両端から覗き込んできた男女の生徒 これはステレオタイプな高校生像で塗り固められた、ただの吉川晃司だったのである

BE MY BABYのPVで両端から吉川晃司が覗き込まれたら割と嫌な気分になるので、あのときの俺もやはり嫌な気分だったんだろうと思う

 

そうなると、BE MY BABYという言葉自体にも意味合いが込められているのではないかと思える

BE MY BABYは「俺の彼女になれ」がおそらく訳として正しい

目のない生徒がこちらに向かって、「俺の彼女になれ」と言うのである

つまり、俺は発言を受ける側の女性ということになる そして女性として相手の目を見ようとするものの、相手には目がないのである

 

ああ、覗き込んできた生徒は俺自身でもあったのだなと気付く

 

例えばお前が将来「俺の彼女になれ」と女性に発言したとして、女性の方からお前を見たら「目のない人間」に見えるに違いない なぜならお前は人の目をみないから

 

と、こう言いたかったのではないか

 

あのとき金縛りにあって正対していた相手は自分自身であったのである

つまり、これは俺の潜在意識下に潜んでおり、俺に忠告を与えようとしてきた霊であり、内的に作り出された霊ということになる

 

 

そうなると、弟が生まれた日における体験も、なにか内的な意識が具現化したものなのであろうか

おそらく母親の襟元からの手は、当時5歳の俺が依存せざるを得なかった「母の体」を手放すという意思の表れではないかと思う

ただ当然そこへの執着もあるわけで、いやいや弟へ引き渡すといった受動的な感情により、手には力がなかったのかもしれない

 

これら内的な霊を内霊(ナイレイ)と呼ぶことにする 当然、造語である

これに対し、外的環境を要因として発生する外霊(ガイレイ)も存在する

 

 

※関連ワード「内チチ」「外チン」については以下を参照

buffaloes24.hatenablog.com

 

外霊

内霊とは、潜在意識下の思想をもとに、本人の今の心境をそのまま具現化したり、本人も気付かないような悩みや欠点を忠告しようとしたり、自己を掘り下げることで顔を出す霊であった

 

対して、外霊とは、なにか物事がうまくいかない 周りの人間も不幸が続いている 等の良くない出来事の捌け口として生まれる霊である

これは本人の精神状態の安定を保つための存在であり、割と長いスパンで存在し、消える際は苦しみつつ現世から退散していくような演技力が求められる

 

例えば、郊外の古民家をリフォームしてそこに移り住んできた家族

しかし引っ越した途端に父親の会社は業績不振によりボーナスカット、息子は高校受験を失敗、母親は謎の頭痛に苦しむ日々

これは古民家にもとから棲みついている霊の仕業であると考えた父親は、古民家の持ち主を調べ始め、この家で50年前にくたばった「貞子」という老婆、こいつが全ての原因であると断定する

理由は、名前が人を呪いそうだから その一点だけで押し通した

この貞子おばあちゃんが、縁側からの陽当たりが差し込む一室で、兄弟・息子夫婦・娘夫婦・孫たちに見守られながら、「大泣きしながら生まれてきたんだから、眠るときは笑顔で、ね」との冗談みたいなセリフを吐きながら安らかにこの世を去ったとしても、そんなことは全く関係がないのである

貞子はこの一家に起きた全責任を背負わされ、そして苦しみつつ現世から押し出されるフリをしなければならないのである

 

しかし貞子おばあちゃんはもう亡くなってしまっているので、誰かが代わりに演技をするしかない

そうなったときに、出番が与えられるのが「下ヨシ子」である

 

 

例えば、内霊に対して下ヨシ子を召喚したとしたらどうであろうか

俺の顔を覗き込んできた霊を分析するにあたり、BE MY BABYのPVに対する知識があることが前提条件となる

内霊の映像化にあたっての元データは個人の経験に左右され、そこに対してのアプローチは他人にはまず不可能なのである

それでなくともおそらく下ヨシ子はおそらく世間のことを何も知らない 非核三原則も答えられない

 

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非核三原則?ホップ・ステップ・ジャンプじゃないの?」

しかしこれが外霊相手になると途端に真価を発揮する

彼女が作り上げた外霊が降りてくると「プレッシャーを感じる」と意味の分からないことを言い出し、それを皮切りに格闘開始となる

姿の見えない相手と懸命にもみ合うさまは、愛媛県大山祇神社にて力士が稲の精霊と相撲をとる「御田植祭」を想起させる

ただ御田植祭との違いは、相手へのリスペクトのなさ、そして相手を半殺しにするという2点である 外霊は勝手に作り上げられた存在なのだからなにをしても許される

あなたになにか良くないことが起こったとき、下ヨシ子先生はきっとあなたを救ってくださいます

 

なにか不可解なものを目にしたとき、潜在意識下までなんとか自己を掘り下げてその物質や現象を分析してみると、思わぬ発見があるかもしれない

同時にそれはあなた自身にとっておそらくプラスになる発見となるのではないかと思う

もし過去にそのようなことがあるのならば、時間の空いたときにぼーっと考えてみてもいいのかもしれない

 

そして、いくら考えても特に引っかかる節がないとき

 

 

それが本物の霊である

 

 

2020年ベスト小説

緊急事態宣言が出たのが4月

外を出歩くことすらままならない生活、これは読書習慣を身につけるチャンスじゃないかと思い、そこからひたすらに読書読書

最近になってさすがにペースは落ちてきたけどそれでも全然本を読んでこなかった過去と比べれば読破数は相当なものに

ただ、読んできたのはほとんどが小説 正直小説なんてものから大して得るものもないと思ってるし、なにかを得ようと意気込んで読みたいとも思わないし、ただただ娯楽としか思っていない

なので、特にこんな力が身についた!とか、見える世界が変わった!なんて言うこともない

伝えたいのは、娯楽としての本の世界は面白さ、しかない

 

そんな読書に明け暮れた今年における、ベスト小説トップ5をまとめてみる

そこまで悩むこともなく、スッとこの順位になったって感じ

 

 

5位 向日葵の咲かない夏(道尾秀介

向日葵の咲かない夏 (新潮文庫)

向日葵の咲かない夏 (新潮文庫)

 

あらすじ

夏休みを迎える終業式の日。先生に頼まれ、欠席した級友の家を訪れた。きい、きい。妙な音が聞こえる。S君は首を吊って死んでいた。だがその衝撃もつかの間、彼の死体は忽然と消えてしまう。一週間後、S君はあるものに姿を変えて現れた。「僕は殺されたんだ」と訴えながら。僕は妹のミカと、彼の無念を晴らすため、事件を追いはじめた。あなたの目の前に広がる、もう一つの夏休み。

 

これ前もブログで面白いって書いた気する

この本を3月に読んで、これきっかけで小説の世界にハマりこんだような、読書習慣をつけさせてくれた一冊

 

ストーリーは雑 あらすじ読むだけで気悪いしな

新展開を見せられると普通は「おっ そうきたか!」とかなるけど、この本はひたすら「なんやねんそれ」ってキレそうになる

 

ただ、雑やけどもうそんなこと気にならないくらい設定のめちゃくちゃさが面白いし、読み始めたら止まらなくなるような展開と文章力のうまさ

 

まあでも特定の宗派の人は受け付けへんやろうし、まっとうに人生を歩んできた人間も嫌悪感を抱くであろう本なのは間違いない

この本を受け入れることができれば4位以上の本もおそらくハマるはず・・・?

 

4位 ボトルネック米澤穂信

ボトルネック(新潮文庫)

ボトルネック(新潮文庫)

 

あらすじ

亡くなった恋人を追悼するため東尋坊を訪れていたぼくは、何かに誘われるように断崖から墜落した……はずだった。ところが気がつくと見慣れた金沢の街にいる。不可解な思いで自宅へ戻ったぼくを迎えたのは、見知らぬ「姉」。もしやここでは、ぼくは「生まれなかった」人間なのか。世界のすべてと折り合えず、自分に対して臆病。そんな「若さ」の影を描き切る、青春ミステリの金字塔。

 

感覚的なものでしかないけど、表紙を見て「あ、絶対この本面白くない」って思う本がたまにある

まさにこの本の表紙がそうやった なんかわからんけど面白いわけない表紙やん とか思ってたし、タイトルも「ザ・ゴール」(肥満児は社会のボトルネックだとして米国人の肥満問題を弾劾する極悪非道本)を連想させるし、本を買ってからも1ヶ月くらい本棚に眠ってた

なんでそんな本を買ったのかというと、今でもそうやけど、人からの推薦本は基本的に買うことにしてるからで、この本も他者推薦本のひとつやった

 

勝手に感覚的に拒絶しといて読まないわけにもいかないし、ちょうど手持ち本もなくなったし、と思ってページをめくると、なんとも読みやすい

まず設定が並行世界モノで、かつその世界で家に帰ると知らない女が出迎えるという、星新一ショートショートのような、非常に興味をそそられる序盤の展開

文章は中学生でもスラスラと読めちゃうような感じで、読むの楽やし展開も面白いなと思う反面、もしかしてこれは学童向けの本じゃないかと思いはじめる

この本を読む前に米澤穂信の「満願」を読んでたので、どう考えても大人向けの恐ろしい本を書く人やとはわかってたけど、この本はそんな作風は一旦捨てて子供向けに書いてるんじゃないかと

 

ただ、並行世界に飛んじゃった主人公が、元の世界との相違点を探して「ここが違う〜」てなってるあたりまでは微笑ましかったけれども、その間違い探しを進めていくにつれてなんとも嫌な展開に

そして気が付けばエラいことに 最後の1ページを読み終えた瞬間は力が抜けて変な笑いが出てしまった

 

読み終えたあとに気付くのは、この湿り気のある話を展開するにあたり、「北陸を舞台としている」というのはめちゃくちゃ大事な要素やなーと

これが横浜とかやと大して面白くない本になってたんじゃないかとさえ思う

 

なんせ読みやすい分学童にも薦めてあげたいけど、学童がこの内容を背負いきれるのかと思うし、この主人公に感情移入してしまうと非常に危険なので読ませない方がいいのは間違いない

 

3位 エディプスの恋人(筒井康隆

エディプスの恋人

エディプスの恋人

 

あらすじ

ある日、少年の頭上でボールが割れた。音もなく、粉ごなになって。――それが異常の始まりだった。強い“意志”の力に守られた少年の周囲に次々と不思議が起こる。その謎を解明しようとした美しきテレパス七瀬は、いつしか少年と愛しあっていた。

 

あらすじ貼り付けようとしたら、おもくそネタバレ書いてあるやんとか思って文章の途中までしか貼り付けられなかった

まさかと思って本の裏側のあらすじも読んでみたけど全くの同文 これは良くない 非常に良くない 本の裏側のあらすじを読んではいけない本

 

さて世間には「人生に行き詰まったら読む本」とか「辛くなったら読むべき本」などといった自己啓発本は色々あるけれども、もうそんな本を読むよりこれを読んだ方が気が楽になるんじゃないかと思う そんなスケールの大きい本

 

もともとこの本は「七瀬三部作」の三部目、七瀬ちゃんという人の心を読むことができる女性を主人公としたシリーズの最終作になるんやけれども、これが三部ともそれぞれ全く毛色の違う話で、このシリーズで一番好きなのは?との問いに対する答えは読者の間でかなり別れるというちょっと変わったシリーズモノ

 

その中でもこの三部目「エディプスの恋人」が最もシリアスで、展開もめちゃくちゃ

特に終盤はそのスケール感に感動を覚えたり、かと思えば過去作を最悪な形で掘り返して吐き気がするような展開に持っていくとか、感情が揺さぶられっ子症候群

 

早瀬耕の未必のマクベスとか伊坂幸太郎のモダンタイムスも大まかにはこういう話に分類されるのかなと思うけど、この本ではバッサリと「これはアレの力です!!」と言い切ってるのが衝撃的

 

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またこの七瀬三部作は活字の使い方が多彩で、上の「恋人はあなたです」とか笑ってしまうねんけども、この本の中の最高権力者である「アレ」は、強すぎるが故に発話内容が全て赤文字で書かれてて、文庫本って色付き文字使えるんや!ってそんな意味わからんところにも感動させられる本

 

2位 新世界より貴志祐介) 

新世界より(上) (講談社文庫)

新世界より(上) (講談社文庫)

 

あらすじ

1000年後の日本。豊かな自然に抱かれた集落、神栖(かみす)66町には純粋無垢な子どもたちの歓声が響く。周囲を注連縄(しめなわ)で囲まれたこの町には、外から穢れが侵入することはない。「神の力(念動力)」を得るに至った人類が手にした平和。念動力(サイコキネシス)の技を磨く子どもたちは野心と希望に燃えていた……隠された先史文明の一端を知るまでは。 

 

これも三部作

ただエディプスの恋人と違うのは、これは三部まとめての2位評価ということ

三部それぞれ割と分厚いし、読むのも大変やけれどもなんせ面白すぎて一週間で1,200ページほど読破してしまった

 

これもぶっ飛んだ設定の本やけどちゃんと話は作り込まれてて、それがそうなったらそうなるわな〜という、筋が通った歴史を歩んだのちの1000年後の日本が描かれている

一応舞台は日本なので、東芝製の電化製品がギリギリ生き残ってた状態で登場したり、昔の地名が残ってたりすることに時折変な感動を覚えさせられたり

また、物語が崩壊し始めるのも「穢れ」のような日本的な概念がもとになってるし、「エゲツない日本版ハリーポッター」って感じかも エゲツないので四肢とかはモゲます

 

こういう長編小説は、否応なしに登場人物とその背景(この本の場合なら神栖66町という街)に愛着が湧いてしまう

途中、間延びする箇所があるとか口コミにはあったけど、本の世界観に対する愛着の醸成にはある程度の文量が必要でもあるわけで、それはこの本に必要な要素じゃないかなと思う

その愛着が湧いた世界がエラいことになるから感情を動かされるのであり、もう途中から読むのが面白いやらしんどいやらわからなくなってくる

 

そしてこの1000年後の日本でも夕方のチャイムというのがあり、それこそがドヴォルザーク新世界より第2楽章「家路」なのである

この「家路」を荒廃した日本に流すという発想、これだけでやられてしまった感がある

読後も家路が頭から抜けなくなるし、改めて聴くとなんと神々しい曲だろうかと思えてくる

なかなかテーマ曲ありきの小説なんてないかもしれんけど、この本は間違いなく「家路」ありきの作品

 

1位 メタモルフォセス群島(筒井康隆) 

メタモルフォセス群島(新潮文庫)

メタモルフォセス群島(新潮文庫)

 

あらすじ

足のはえてくる果実。木の枝に寄生している小動物。人間を食べて首に似た果実をつける植物。放射能の影響であらゆる生物が突然変異体(ミュータント)と化した不気味な世界を描いた『メタモルフォセス群島』。妻子を脱獄囚に人質にとられたサラリーマンが、脱獄囚の家にのり込んで脅迫のエスカレーションを企てる『毟りあい』。ほかに『五郎八航空』『定年食』など幻想と恐怖の突然変異的作品群。

 

 この記事の頭にも書いたけど、小説なんて娯楽としか思ってないんで、そこから文学的表現云々とか、なにか感じるものがあった云々ももちろん重視すべきなんやろうけど、第一にやっぱり読んでて面白いかどうかが一番だと思う

すごい高尚な文章なんやけど読む気起こらんなあ、などという本は、別に読まなくてもいいんじゃないかと思ってしまう

 

その点この本は娯楽に全振りしている アホすぎる

筒井康隆の本はこの一年でかなり読んだけれども、やっぱり長編よりも短編で輝く人だと思う

短編集もかなり出してるし、7割位は読んだはずやけども、この「メタモルフォセス群島」は頭ひとつ抜けて面白かった

 

アルバムでいう”捨て曲”みたいなものが一曲もないし、エロ・グロ・ホラー・歴史・SFと多様なジャンルの話をこの一冊で読むことができる

 

特に印象深いのは「走る取的」と「こちら一の谷」

走る取的は、取的(お相撲さん)がいかに最強の格闘家であるかと語りあげたのちに、主人公たちがその取的にひたすらダッシュで追われ続ける地獄のような話

学童のときの鬼ごっこを思い出したらわかるように、追われる恐怖というのは笑いと紙一重で、追いつかれそうになればなるほど笑いが止まらなくなるあの現象を活字で味わうことができる

”最も怖い短編”にもよく名前が挙がるほどの有名なホラー短編なので読んで損はないはず

 

こちら一の谷は、源義経の「鵯越の逆落とし」を描いたものやけれども、これがなぜか現代とつながってて、現代の文献をもとに話が進むというSF&歴史話

例えば義経の容姿は平家物語義経記では出っ歯になっているが、現代では信用できない文献とされているために、ひたすら歯が伸びたり縮んだりしながら馬に乗る羽目になったり、逆落としの場所を巡って山陽電鉄神戸電鉄の広報課がお互い義経を引っ張り込もうとしたり

歴史モノを描くにあたってあえて現代の文献の曖昧さに触れて、それに義経が踊らされるという発想が面白すぎるし、これもかなりの傑作

 

そして最終話の「メタモルフォセス群島」の極上のオチをもって締めくくられるのがまた最高

「メタモルフォセス群島」は「新世界より」の要素と「エディプスの恋人」の要素も混ざってて、結局こんなんが好きなんやろな

 

 

筒井康隆の短編集のおすすめで「笑うな」がよく挙がってるけど、絶対こっちを読むべき

中2のときに「笑うな」を読んで、筒井康隆は面白くない人だと思って避けてたので

 

その他 印象に残った本

 夜行(森見登美彦

夜行 (小学館文庫)

夜行 (小学館文庫)

 

なぜかこの人の文章受け付けないなあ という作家はいるもので、それはストーリーの面白い面白くないに関係なく、単純に好みの問題なので仕方のないものと割り切っていた

自分にとって森見登美彦はそういう作家で、四畳半なんとかとペンギン・ハイウェイを読んで、なんとなくハマらない人なんやろうなあと思って避けていた

ただ、これも他者推薦があったから仕方無しに読んだら、ドハマリした

鉄道と旅行とホラーと そして短編集のような構成で 好きなものが詰められていたらさすがに贔屓してしまう

口コミをみたら森見登美彦ファンが割と不満げでビックリして、それも「オチがよくわからない」というものだった

オチが曖昧やからええねん そこを自分で補完することに読書の醍醐味があるんやんけ

森見登美彦はファンの声に惑わされず俺の声だけを信じて執筆活動を頑張ってほしい

 

 

慟哭(貫井徳郎

慟哭 (創元推理文庫)

慟哭 (創元推理文庫)

 

いいオチです 本当に

話の展開が変わって「ええええ!!」となる本は意外と印象に残らなくて

「えっ・・・」というような、しこりが残るか残らないか程度の本こそが上質やと思ってます

この本もデカい声出しそうなところはあったけども、なんせ最後1ページの締めがさりげなくて良いんです

 

 

動物農場ジョージ・オーウェル

動物農場 (角川文庫)

動物農場 (角川文庫)

 

農場においてある日、ブタの爺さんが語る

このまま人間に仕えて労働を提供するだけで一生を終えていいのか!私達は餌をもらえる対価として労働を提供しているが、人間はミルクも卵も生み出せない癖にぬくぬくとメシを食いやがって!

みたいな話

 

動物数十頭に反逆されれば人間もかなわないわけで、晴れて動物農場が完成

めでたしめでたし とはならず、そこから頭の良いブタさんによる独裁のはじまりはじまり

表紙の可愛いイラストからは想像もつかない、血と汗の洗脳物語

熱弁をふるって「それっぽいことを言う」ブタが資本家のごとき地位に上り詰めてしまうのは、人間社会でも同じであり、この本が書かれた1945年から75年が経った今でも同じであり、、、

 

最後に

みんなのおすすめ本 教えて下さい

その日中になにかしらの手段で注文しますんで

 

 

1週間日記

10/30(金) インフラケーキの喪失

華の金曜日 だなんて思うようになったのは転職してからで、前職では金曜日といえば電車内やホームに雑然と佇む嘔吐物や、駅員が止めるのを明らかに待っている、お互いが妙な距離を保って吠えあうだけのヘタレ南大阪人の喧嘩に関わらないといけない最&悪な日であった

 

でも今や華金だなんて日本語を使うことに違和感を覚えない

定時のチャイムが鳴り、颯爽と会社を抜け出す

もちろん業務は山積み でも翌月曜日に恨めし気に金曜日の自分を恨む自分は、今の自分と同人格を持つなんて、この瞬間だけは思えない

かつ週末に無残に死ぬ可能性もある

週末は外へ出歩く機会も増えるので、周囲の悪意の有無に関わらず暴発的に死ぬ可能性が高まる

金曜日に残業をして週末に死ぬなんてやりきれなさすぎる 駆け足で会社を脱出するに限る

 

今日は友人との飲み会が19時から入っている

定時に会社を抜ければ明らかに早く着くのに、「時間ギリギリになるかも!」なんてメッセージを送る

 

 

 

自分は友人が多いタイプではない

お互いにタメ口を使えるという条件を除いて先輩や後輩にはなんと1人も友達がいない 敬語の居心地の悪さが耐えきれない

そのような人間が導き出す結論として、よくぞ自分の友人は存在してくださった ということになるのは当然のように思える

そしてそれは友人そのものを超越し、友人を生かしておいてくれた環境への敬意につながる

友人を真っ当な道に歩ませた担任教諭や友人を轢きかけすんでのところでブレーキをきかせた腕利きドライバーにまでその範囲は及ぶが、直接的に友人をポンとこの世に排出したのは何物でもない 母親である

 

友人の母親の誕生日を祝す これは自分の人生を客観的に見つめたときに、当然導き出されるものではないだろうか

 

俺は友人の母親の誕生日ケーキを買うため、会社を早く出た

翌月曜日の自分もこの行為には抗弁できるはずがない

 

上本町にこの世で1番うまいチョコレートケーキがあるので、それを買って行くことに

営業時間は19時まで 上本町に着くのは18時過ぎなので十分に余裕がある

 

 

店の前に着く

店の中は明るい 中には店員の姿も見える

中に入ろうとする

しかし腰元に無慈悲な看板が突きつけられる

「営業時間… ~18:00」

 

??

 

 

どのサイトを見ても19時までと書いていた 店内を掃除する店員たちは情報の独占と保護に酔っているかのように愉しげな背中を揺らしていた

 

途方に暮れる

 

これだけを目当てにやってきた このケーキ以外にあげたいものなどない

まだ時間はあるのにほかのものを買うといった選択肢は一切存在しなかった

 

そして思う 贈り物としてのケーキはもはやインフラの域であると

贈り物は贈り物本体とともに「敬意」が届けられる

その敬意を受け止める土台として贈り物が存在するのであるが、ケーキというのは土台として盤石の地位を築いている

ここのケーキ以上の土台などもう見つからない 代替手段など存在しないのである 明石海峡を通行止めにしてはいけない

ケーキ屋は不意な営業時間の短縮など絶対にしてはいけないのである

 

 

といった一連の流れをきちんと友人に聞かせる もちろん手には何の包装紙もぶら下がっていない

土台を失った敬意が空中でプラプラと漂う

 

人々の知らないところで地球の危機を救っていた救世主は、その話をおおっぴろげにするだろうか

これを話すことが最高にダサく、また全てほら吹き話である可能性があった上で友人はこの話を受け入れてくれた

 

やはり友人の母親は大事にしようと思った

 

11月2日(月)パブロフ的打者の呪縛

仕事がアホほど溜まっている 金曜日の自分をブチ殺したい

せめてもの気分晴らし 昼休みは会社の目の前のバッティングセンターに

 

バッティングゲージに入ると、同時に隣の打席へ若い男が入ってきた

 

相手が打っている途中にこちらが打席に入る、またこちらが打っている最中に相手が打席に入ってくる、といった場合には全く相手のことは気にならない

ただ、同時に打席に入り、同時にスタートボタンを押すときに限り、無性に相手のバッティングが気になってしまうものである

 

今回も例に漏れず、嫌でも視線が隣の男をとらえてしまう

 

こちらの方が若干早くスタートし、こちらが1球目を打った直後に隣の男へと球が投じられた

 

投じられるはずであった

 

 

隣の男へと球を投じるピッチングマシンにはモニターが備え付けられ、細見の投手が振りかぶって投球動作をする

すんっ という空気が切り裂かれる音を響かせ モニターの投手は投げ終えた格好で男を睨む

 

球は来なかった

 

打ち気満々で上下に揺らしてあった男のヒザが一旦伸び上がる 首をかしげて立ち尽くしている

まあたまにこういうことは起こる うまいこと球がセットされていなかったりとか

等、おそらく楽観的で正当可能な理由が男の頭には浮かんでいるである

 

2球目 今後こそと意気込みバットを構える男を恥辱するかのように、ピッチングマシンの空回る音が鼻笑いのように響き、またもや隣の打席には虚無な空間が広がる

 

3球目 仏の顔も三度まで 今度俺を辱めたらわかってるだろうなといった凄みを持たせ、男がバットを構える

モニターの投手が高々と振りかぶる もうこの時点でボールを持っていないのがなぜか確信できる 右手をグーの形にしているのが見えた気がした

欺瞞に満ちた投球フォームで空気を送り出す 男はたまらず後ろの操作盤に行く

 

操作盤ではピッチングマシンから投げられる球の高低を調整することができる

そもそも自分に向かってくる球が存在しないのに操作盤に行ってどうするのだろうか

独身どころか彼女もいない男が赤ちゃん本舗に行くようなものである

この時点でもう男は錯乱していたのかもしれない

 

モニターの投手が投球フォームに入る

男は操作盤を放り出し慌てて打席へ向かい、バットを構える

 

嘲笑音 欺瞞 空虚

 

無力さを思い知らされた彼はまた操作盤へ向かう なんとか今の状況に対し能動的な支配ができないかとボタンを連打する 焦燥

 

投手が振りかぶる 男は駆け足で打席に向かう バットを構える ・・・

 

 

 

パブロフの犬はベルが鳴ればエサがもらえる幸運なイヌだろうか

いや、ベルが鳴ったときにエサを食べるようにしつけられただけの、家畜的性質すら持った可哀そうな生き物ではないだろうか

もはやベルが鳴らない時間に空腹すら感じることができないのかもしれない そこには他者に規定された不自由が存在する

 

 

この男は パブロフの犬ではないだろうか

どんな状況下にあっても、ピッチングマシンが投球動作を始めると無意識的に、本能的に、スタスタと打席へ向かい金属片を相手に向ける

 

普段、機械に対するヒトの態度はもちろん高圧的なものである

機械はヒトによって規定され、ヒトの掌握可能な範囲内に留まっていると思われている

パソコンやコピー機が固まれば「はよ動けこのボケ」と当然のごとく罵詈雑言を浴びせる

しかし本当に壊れてしまったときはどうだろうか 神にも祈る気持ちで機械に寄り添い、機械を失った無力な自分を卑下させる時間的隙間を発生させないよう、懸命に治療するのではないだろうか

 

ピッチングマシンも同じく、ヒトのストレス発散のためだけに存在し、少しコントロールをはずせばボロカスに罵声を浴びせられる

しかしこれがひとたび壊れると急激に引力を増す

とたんにヒトはマシンの支配下におかれ、マシンが規定する世界で生きることになるのである

 

いま隣の男は哀れにもピッチングマシン内世界で生きている

ピッチングマシンが動きを止めたとき、男は消え去ってしまうのではないかとさえ思える

 

そして俺のヒザはガクガクと震え、口からはヴィヴラートのごとき波打った息が吐き出される

目の前の寸劇が面白すぎてまともにバットが構えられないのである

この様子じゃまともに最後まで球が打てるとは思えないし、金を返せと言いたくなる

金をせびるとしたらバッティングセンターの店員だろうか、いや俺に球を投げ込むマシンは壊れていない

となれば隣の男だろうか 虚無に向かいバットを構え続ける男にまだ金銭を要求するような無慈悲なことができるはずがない

なぜなら感情を持ったヒトであるから ヒトである故に・・・

 

ああ隣の男を見てバットを構えられない俺もまた、機械に規定された存在なのだと気付く

残り球数は15球と表示されている

マシンがあと15回アームを振れば 俺はすんっと消えるのかもしれない

 

11月6日(金)レジ袋の悲劇

毎朝中崎町駅に着くと無意識にコンビニに行く

コーヒーを買わないと、いつも就業中眠くて仕方ないのである

あるとき、コーヒーによる眠気の撃退を繰り返すことにより逆にコーヒーと眠気の結び付けが強まりコーヒーによる眠気への条件付けがなされているに違いないと確信し、逆にコーヒーを飲むことをやめた時期があった

死ぬほど眠たかった コーヒーを飲もうと思った

 

だから今日も駅前のローソンに無意識に入り、コーヒーと昼飯のカップ麺とお菓子のハイチュウを購入する

会社にゴミを捨てるときは、なぜかビニール袋にくるんでから捨てるといった決まりがあり、いつも基本的に朝からコンビニで袋をもらい、そこにゴミをくるんで捨てている

 

 

いまレジの前には3人ほどが並んでいる

そのうち、俺のひとり前の中年男性の会計になる

男性はレジ袋を要求した

店員が袋に商品を詰めていく

袋に商品を詰めている、その最中に店員が男性に向かって言う

「レジ袋はどうされますか」

 

中年男性はなぜか落ち着いた様子で答える

「いらないす」

 

嫌な予感がした

 

 

 

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もしかすると自分は主人公ではないのかもしれないと思う

バッティングセンター同様、今も完全に他者によって自分の行動が制約された

今日に限っては、赤の他人が俺の意思を代弁した「いらないす」 びっくりした

ここまでされると、自分が世界の中心にいるなんて考えは嫌でも取り払わなくてはいけなくなるのではないか

 

そんな心配を抱きながら会社へと向かう

 

俺の席の真向かいには、俺と向かい合うようにして上司の机が置かれており、上司と対面しながら仕事をするような形になっている

今その上司の椅子には、ヤクルトレディの制服をした中年女性が座っていた

 

ほっと息をつく よかった

自分の生きている世界は他人の手中ではなかった

 

 

あのときコンビニで何が起こったか

故意か事故か、店員は俺に聞くべきレジ袋の必要不必要を、俺の1つ前に並んでいた中年男性に問いかけてしまった

そして中年男性はその問いを引き受け、結論まで出してしまった

ここで ズレ が生じた

 

俺の「役割」を受け持ってしまった中年男性の「役割」は押し出され、弾き飛ばされ、それが誰かの肉体に入り込み、その肉体から弾き飛ばされた「役割」が・・・といったように、玉突き型に役割がズレてしまったのである

ここでズレたのが「人格」であれば、俺の前に座っているヤクルトレディはCADで精巧な施工図面を描き出すし、いつもの上長のように俺に的確な指示を与えてくれる

 

しかしそんな様子もなく、パソコンを前に座ったがいいが、何をしていいのかわからないといった顔をしている

やはり役割がズレたのだなと思う

ジョアではなくキャドしかないこの職場ではヤクルトレディとしての経歴を生かせそうにもない彼女だが、この会社に出勤し俺の上長としてその椅子に座る役割を与えられた以上、戸惑いながらも立ち上がることは許されない

 

そして俺が俺の役割を普段通りこなせているということは、俺の役割だけは変わっていないのだと思う

コンビニにて俺の役割を引き受けてしまった中年男性はおそらくどこかへ消えてしまったに違いない

 

ヤクルトレディが上長だと仕事にならないので、8時間無心で寿司打をしていると終業時間を迎える

 

 

家に帰ると、俺の実家の住所で暮らす役割を与えられた見知らぬ中年男女と年下の男2人が待っているのだろうか

 

役割がより抽象的であるのならば、そこにいるのは妹である可能性もある

その妹は俺の中のアニマが生んだ、神聖的な存在なのだろうか

そしてその名前は元の人格のものを引き継いでいるのか、坂本家にそもそも妹がいた場合の仮定上にて即席で作られた名前なのか

 

考えれば考えるほど気味が悪いので家に帰ろうとは思わない

 

今日は金曜日だが、残業をしようと思った